## ジョイスのユリシーズの美
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言語の音楽性
ジョイスは、「ユリシーズ」において、言語そのものの音楽性を最大限に引き出しています。 各章では異なる文体が用いられ、それぞれのリズムや語感が、登場人物の心理状態や場面の雰囲気を鮮やかに描き出します。 例えば、「牛のように」の章では、聖体拝領の儀式と肉屋の描写が交錯する中で、ラテン語由来の荘厳な語彙と、卑俗なスラングが織りなす独特のリズムが、登場人物たちの聖と俗のはざまにある意識を浮き彫りにします。 また、「サイレン」の章では、オペラのアリアのように、文体が音楽の形式に倣って構成され、登場人物たちの会話がまるで歌のように響き渡る効果を生み出しています。
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神話的対応関係
「ユリシーズ」は、ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」との綿密な対応関係が構築されている点でも、その美しさを見出すことができます。 一見すると無秩序に思えるダブリンの街を彷徨う登場人物たちの行動は、「オデュッセイア」のエピソードや登場人物たちと重ね合わせることで、象徴的な意味を帯びてきます。 例えば、主人公レオポルド・ブルームは、知恵と忍耐で数々の苦難を乗り越えた英雄オデュッセウスに対応付けられており、彼の平凡な一日が、壮大な冒険譚の隠喩として読み解くことができるようになります。 このような神話的対応関係は、単なる寓意を超え、現実と神話、古代と現代を融合させることで、人間の普遍的な経験を浮かび上がらせることに貢献しています。
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意識の流れの表現
「ユリシーズ」は、登場人物たちの意識の流れを、言葉によって忠実に再現しようとした作品でもあります。 ジョイスは、従来の小説の文法や論理を打ち破り、思考の断片や感覚の連想を、そのまま文章に落とし込むことで、人間の意識の複雑さを描き出しています。 例えば、ブルームの妻モリーの有名な独白は、句読点もほとんどなく、彼女の意識がとめどなく流れ出す様子が表現されています。 このような意識の流れの技法は、人間の内的世界をありのままに描き出すことで、近代小説に新たな境地を開きました。