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ジョイスのユリシーズの思想的背景

ジョイスのユリシーズの思想的背景

1. モダニズムの影響

「ユリシーズ」は、20世紀初頭のヨーロッパで生まれたモダニズム文学を代表する作品の一つです。モダニズムは、伝統的な価値観や表現方法を打破し、新しい芸術表現を追求した運動でした。「ユリシーズ」もまた、従来の小説の形式から逸脱し、意識の流れや内的独白などの技法を駆使して、人間の心理や意識を複雑に描き出しています。特に、時間と空間を自由に行き来する構成や、神話や象徴を多用した難解な文体は、モダニズム文学の特徴を色濃く反映しています。

2. ホメロス叙事詩『オデュッセイア』との関係

「ユリシーズ」は、古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を下層構造としています。『オデュッセイア』は、トロイア戦争の英雄オデュッセウスが、故郷イタカへの帰還を目指す10年間の冒険を描いた作品です。ジョイスは、『オデュッセイア』の登場人物やエピソードを借りながら、現代ダブリンの街を舞台に、平凡な一日の出来事を叙事詩的なスケールで描いています。この手法は、古典と現代を対比させると共に、日常の中に潜む叙事詩的な可能性を示唆しています。

3. アイルランド文化とナショナリズム

ジョイスは、アイルランドのダブリンで生まれ育ちましたが、当時のアイルランドはイギリスの支配下にあり、政治的にも文化的にも抑圧された状態でした。ジョイス自身も、アイルランド社会の閉鎖性やカトリック教会の権威主義に反発し、20代前半で祖国を離れています。しかし、彼の作品には、アイルランド文化や歴史、ダブリンの街並みなどが色濃く反映されており、「ユリシーズ」もまた、複雑な愛憎関係にある故郷へのオマージュとして読むことができます。

4. 心理学、特にフロイトの影響

20世紀初頭は、ジークムント・フロイトの精神分析学が注目を集めていた時代でもありました。フロイトは、人間の意識下に抑圧された欲望やトラウマが、意識や行動に影響を与えるという説を唱え、文学界にも大きな影響を与えました。「ユリシーズ」においても、登場人物たちの意識の流れや内的独白、夢や幻想などの描写に、フロイトの精神分析学の影響が色濃く見られます。特に、主人公レオポルド・ブルームの意識の流れは、フロイトの提唱する自由連想法を彷彿とさせ、人間の深層心理を探求する試みとして評価されています。

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