## ジョイスのユリシーズの対称性
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ホメロス『オデュッセイア』との対応関係
ユリシーズの各章は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の特定のエピソードに対応しており、章のタイトルは1922年の初版には記載されていませんでしたが、ジョイス自身によって考案され、後に研究者によって明らかにされました。この対応関係は、章の構成だけでなく、登場人物、テーマ、モチーフなど、作品の様々なレベルで確認することができます。
例えば、第1章「テレマコス」は、テレマコスが父親オデュッセウスを探しに出る『オデュッセイア』の冒頭部分に対応しています。同様に、第18章「ペネロペ」は、オデュッセウスの妻ペネロペが、夫の帰還を待ちわびながら求婚者たちを欺き続ける場面に対応しています。
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時間と空間の対称性
ユリシーズは、1904年6月16日午前8時から翌17日午前2時過ぎまでのダブリンを舞台に、わずか1日の出来事を描いています。しかし、その時間と空間は、登場人物の意識の流れや記憶、夢などによって、複雑に交錯し、重層的な構造を形成しています。
例えば、第4章「カリュプソー」では、主人公レオポルド・ブルームが朝食を作る場面が描かれますが、彼の意識は過去の出来事や未来への展望、さらには文学や哲学、宗教など、多岐にわたる思考へと飛躍していきます。
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文体と形式の対称性
ユリシーズは、各章ごとに異なる文体や形式が採用されており、その多様性は作品の特徴の一つとなっています。例えば、第1章は伝統的な小説の文体で書かれているのに対し、第15章「キルケ」は戯曲形式で書かれています。また、第18章は句読点のない意識の流れの手法が用いられ、ペネロペの心理をリアルに描き出しています。
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その他の対称性
上記の例以外にも、ユリシーズには様々なレベルで対称性が確認できます。例えば、登場人物の名前や職業、性格、関係性などにも、対称的な要素が見られることがあります。また、作品全体を通して、繰り返し登場するモチーフやシンボルも、作品の対称性を強調する役割を果たしています。
これらの対称性は、作品に複雑さと深みを与え、読者に多様な解釈の可能性を提供しています。