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ジョイスのユリシーズが扱う社会問題

ジョイスのユリシーズが扱う社会問題

アイルランドのナショナリズム

 20世紀初頭、アイルランドはイギリスからの独立を求めるナショナリズム運動の渦中にありました。『ユリシーズ』はこの時代の雰囲気を鮮やかに描き出し、主人公のレオポルド・ブルームを通じて、アイルランド人としてのアイデンティティや、イギリス文化との複雑な関係に揺れ動く姿が描写されています。ブルーム自身はユダヤ系アイルランド人であり、アイルランド社会における「異邦人」としての疎外感や、ナショナリズムの高揚の中でアイデンティティに葛藤する様子が描かれています。また、作中には、ゲーリック語復興運動や、アイルランドの文化・伝統を称賛する一方で、イギリス文化の影響から脱却できないアイルランド社会の矛盾も描かれています。

階級社会

 当時のダブリンは厳格な階級社会であり、『ユリシーズ』はこの社会構造を登場人物たちの生活や関係を通して浮き彫りにしています。ブルームは中流階級の広告 canvasser として働き、上流階級の人々との経済的な格差や社会的立場の違いに直面します。一方、スティーブン・デダラスは、芸術家としての道を志しながらも、貧困や社会からの孤立に苦しみます。ジョイスは、階級による差別や偏見、貧困や労働問題といった社会問題を、登場人物たちの日常を通してリアルに描き出しています。

男性らしさ

 作中では、父と子の不在というテーマが繰り返し登場し、男性性の危機が暗示されています。ブルームは、幼い息子を亡くした悲しみから立ち直れずにいる妻との間に、感情的な距離を感じています。また、スティーブンは、亡くなった母親の幻影に苦しめられながら、父親との確執を抱えています。当時のアイルランド社会では、男性は家長として、家族を養い、社会的な成功を収めることが求められていました。しかし、ブルームやスティーブンは、こうした伝統的な男性像から逸脱しており、喪失感や無力感に苛まれています。

宗教

 アイルランドはカトリックの国として知られていますが、『ユリシーズ』では、宗教に対する複雑な感情が描かれています。ブルームはユダヤ系であり、カトリック社会から疎外感を抱いています。スティーブンは、かつては敬虔なカトリック教徒でしたが、信仰を失い、教会に対して懐疑的な視線を向けています。ジョイス自身もまた、厳格なカトリック教育を受けた後に信仰から離れており、作中には宗教に対する批判的な視線が見え隠れします。ユリシーズは、当時のアイルランド社会における、宗教の持つ影響力や、人々の信仰心、そして宗教に対する懐疑的な態度などを多角的に描き出しています。

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