ジョイスのダブリン市民を読んだ後に読むべき本
ダブリンの雰囲気と日常を描く:『ギター弾き』/フランク・オコナー
ジェイムズ・ジョイスの『ダブリン市民』を読了後、アイルランド文学、特にダブリンという都市の持つ独特な雰囲気とそこに暮らす人々の日常を描いた作品をさらに探求したいと思う読者も多いのではないでしょうか。『ダブリン市民』が捉えた、20世紀初頭のダブリンの停滞感、人々の諦念と希望、そしてアイデンティティの模索といったテーマは、その後のアイルランド文学にも大きな影響を与えました。
フランク・オコナーの『ギター弾き』は、『ダブリン市民』から約半世紀後のダブリンを舞台に、そこに生きる人々の日常生活を、ある一人の青年の視点から淡々と、しかし鋭い観察眼と共感を込めて描いた短編集です。オコナーは、ジョイスが切り開いたモダニズム文学の手法を受け継ぎながらも、より簡潔で、時にユーモラスな文 stylule で、戦後のダブリン社会における人々の孤独、疎外感、そしてそれでもなお失われない人間味を描写しています。
『ギター弾き』に収録されている短編は、それぞれ独立した物語でありながら、登場する人物たちの間にはゆるやかな繋がりがあり、全体として、当時のダブリンの下町に生きる人々の生きた姿を浮き彫りにしています。主人公の多くは、社会的に成功しているとは言い難い、市井の人々です。失業中だったり、将来に希望を持てなかったり、過去の失敗を引きずっていたりと、それぞれに悩みを抱えています。しかし、オコナーは彼らの姿を感傷的に描くのではなく、時にユーモアを交えながら、彼らの心の奥底に潜む強さや優しさを丁寧に描き出しています。
例えば、表題作の「ギター弾き」では、失業中の青年が、ギターを弾くことで自分の存在意義を見出そうとする姿が描かれています。彼はギターの腕前には自信がなく、周囲の人々からも冷めた目で見られていますが、それでもギターを弾くことを諦めません。彼の姿は、まさにジョイスが描いたダブリン市民たちの、閉塞的な状況の中でも、ささやかな希望を見出し、懸命に生きようとする姿と重なります。
『ギター弾き』は、『ダブリン市民』を読んだ読者に、時代を超えて受け継がれるダブリンの魂に触れ、人生の哀歓を静かに見つめるという文学的体験を与えてくれるでしょう。