## ジョイスのダブリン市民の思索
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麻痺
ジェイムズ・ジョイスの短編小説集『ダブリン市民』(1914年)は、20世紀初頭のダブリンを舞台に、そこに住む人々の生活を描いています。作品全体を貫くテーマの一つに、「麻痺」があります。ジョイス自身、この言葉を用いて、当時のダブリン社会を覆う停滞感や無気力さを表現しました。
ダブリン市民は、社会、政治、宗教、経済など、様々なレベルで麻痺に陥っています。彼らは現状に不満を抱きながらも、そこから抜け出すための行動を起こすことができません。日々の生活に追われ、夢や希望を失い、ただ漫然と日々を過ごしているのです。
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逃亡
麻痺と密接に関係するのが、「逃亡」というテーマです。ダブリン市民の多くは、自分たちの置かれた状況から逃れることを夢見ています。しかし、実際に逃亡できる者はごくわずかであり、多くは夢を叶えられないまま、ダブリンに留まり続けます。
逃亡は、物理的なものだけでなく、精神的なものも含まれます。例えば、アルコールや空想の世界に逃避することで、現実の苦しみから一時的に逃れようとする人物も描かれています。
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エピファニー
ジョイスの作品において重要な要素の一つに、「エピファニー」があります。これは、日常の些細な出来事をきっかけに、登場人物が突然真実を悟る瞬間のことを指します。
ダブリン市民においても、いくつかのエピファニーが登場します。しかし、登場人物たちは、エピファニーによって人生を変えるような決断をすることはほとんどありません。彼らは、悟りを得た後も、結局は以前と同じように、麻痺した状態から抜け出せずにいます。