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ジョイスのダブリン市民の光と影

## ジョイスのダブリン市民の光と影

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「ダブリン市民」には、アイルランドの首都ダブリンの日常生活の光と影が、ありのままに描かれています。短編集全体を通して、ジョイスは、街並みやそこに暮らす人々の姿を鮮やかに描き出す一方で、登場人物たちの内面や社会全体の停滞感を浮き彫りにしています。

「光」は、主に街の活気や人々の温かさ、そして一瞬の希望や可能性として表現されています。例えば、「二人の若紳士」では、コルリーは故郷ダブリンを離れ、イギリスで成功を収めるという希望を抱いています。また、「死者たち」のガブリエルは、晩餐会でスピーチを行い、人々とのつながりを感じます。

これらの描写は、一見すると、ダブリンの人々の生活が輝かしいものであるかのように思わせるかもしれません。しかし、ジョイスは、その「光」の裏側に潜む「影」を、巧みに描き出していきます。

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「影」は、登場人物たちの挫折、幻滅、そして社会全体の停滞感として表現されます。例えば、「二人の若紳士」では、コルリーの希望は、イギリスでの生活が実際には厳しいものであるという現実に打ち砕かれます。「死者たち」のガブリエルは、妻の過去の恋愛話によって、自分たちの関係の脆さを突きつけられます。

「影」はまた、当時のアイルランドを取り巻く政治的、宗教的な抑圧によっても表現されています。イギリスからの独立を望みながらも、行動に移せない人々。カトリックの教えに縛られ、自由な生き方を阻まれる人々。ジョイスは、彼らの苦悩を、静かで、しかし力強い筆致で描き出しています。

「ダブリン市民」は、「光」と「影」の対比を通して、当時のダブリンの複雑な現実を浮き彫りにしています。ジョイスは、美しい風景描写や魅力的な登場人物描写の裏側に、社会問題や人間の心の闇を潜ませることで、読者に深い問いを投げかけていると言えるでしょう。

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