ジョイスのダブリン市民と時間
時間とダブリン市民の関係性
ジェイムズ・ジョイスの短編小説集『ダブリン市民』(1914年) は、20世紀初頭のダブリンを舞台に、そこに住む人々の生活を描いています。ジョイスは、ダブリン市民の生活における時間、特に停滞、麻痺、過去の束縛といった側面を探求しています。
時間の循環性
『ダブリン市民』では、時間が直線的ではなく、循環的に動いていることが示唆されています。登場人物は、同じ行動パターンを繰り返し、変化や進歩の可能性から逃れられないように感じています。例えば、「姉妹」の主人公は、亡くなった神父のルーティンを思い出し、彼の人生が変化に乏しい、繰り返しのサイクルであったことを示唆しています。
停滞と麻痺
時間的停滞のテーマは、物語全体に見られます。ダブリンという街自体は、停滞と衰退の象徴として描かれ、そこに住む人々は、過去に囚われ、未来に希望を持てずにいます。例えば、「二人の紳士」のダフィー氏は、アルコール依存症によって時間が止まっているかのように描かれています。
過去の束縛
過去は、ダブリン市民の現在に大きな影を落としています。登場人物は、過去の経験、関係、機会を逃したことに悩まされ、前に進むことができません。例えば、「死者たち」の主人公であるガブリエルは、亡くなった妻の過去への愛に直面し、自分自身の存在の空虚さを痛感します。
エピファニーと時間の瞬間
ジョイスは、エピファニー、つまり登場人物が自分自身や周囲の世界に対する突然の洞察を得る瞬間を用いています。これらのエピファニーは、しばしば時間感覚の変化と関連しており、登場人物は、自分の人生における停滞や麻痺を認識します。例えば、「イブリン」の主人公は、新しい人生を始めるために船に乗ろうとしますが、過去の束縛によって麻痺し、行動を起こすことができなくなります。