## ジスモンディの政治経済学新原理の選択
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ジスモンディの思想における「選択」の位置づけ
ジャン・シャルル・レオナール・シモンド・ド・シスモンディ、通称シスモンディは、18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍した経済学者であり歴史家です。彼の代表作である『政治経済学新原理』(1819年)は、当時の経済学の主流であった古典派経済学、特にアダム・スミスの思想を批判的に継承し、独自の経済理論を展開したことで知られています。
シスモンディの経済学は、人間の幸福を経済学の中心に据えるという点で、古典派経済学とは一線を画していました。彼は、富の増大が必ずしも幸福に繋がるとは限らないと考え、むしろ貧富の格差の拡大や労働者の窮困化など、経済成長に伴う様々な社会問題に目を向けました。
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「選択」が問題となる背景:産業革命と社会不安
シスモンディが『新原理』を執筆した時代は、まさに産業革命が本格化し、資本主義経済が急速に発展していた時期と重なります。工場制機械工業の導入は、生産力の飛躍的な向上をもたらす一方で、労働者の大量失業や都市への人口集中、貧富の格差拡大など、様々な社会問題を引き起こしました。
シスモンディは、このような社会状況を目の当たりにし、古典派経済学が前提としていた「自由競争」や「市場メカニズム」に対する疑問を抱くようになります。彼は、個人の自由な経済活動が、社会全体にとって必ずしも望ましい結果をもたらすとは限らないと考え、政府による積極的な介入の必要性を訴えました。
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シスモンディにおける「選択」:国家による介入と調整
シスモンディは、自由放任主義に基づく市場メカニズムだけでは、社会全体の幸福を実現することは不可能だと考えました。彼は、政府が積極的に経済活動に介入し、生産と消費の均衡を図ること、富の分配を調整すること、労働者を保護することの必要性を説きました。
例えば、シスモンディは、労働者の生活水準を守るためには、最低賃金の導入や労働時間の規制が必要であると主張しました。また、過剰生産による経済危機を防ぐためには、政府が公共事業などを通じて需要を創出し、市場を調整する必要があるとも主張しました。
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「選択」の対象:生産と分配、短期と長期の視点
シスモンディは、経済活動における「選択」の重要性を繰り返し強調しました。彼は、生産活動においては、単に利潤の最大化を目指すのではなく、社会全体の需要を考慮した計画的な生産を行うべきだと主張しました。また、分配においては、富の集中を抑制し、労働者にも適切な報酬が与えられるよう、政府が介入すべきだと考えました。
さらに、シスモンディは、短期的な経済成長よりも、長期的な社会の安定と幸福を重視しました。彼は、資本主義経済が内包する矛盾を克服し、持続可能な社会を実現するためには、政府による適切な介入と調整が不可欠であると結論づけたのです。