シュムペンターの経済発展の理論の批評
シュムペンターの理論の概要
ヨーゼフ・シュンペーターは、その著書『経済発展の理論』（1911年）の中で、経済発展は、本質的に静的な均衡状態にある経済を、不均衡状態に突き落とす「新結合」の導入によって起こると主張しました。この新結合は、新しい財・サービス、生産方法、市場、資源、組織形態などを指し、企業家がこの新結合を実行することで、一時的な独占的利益を獲得し、それが模倣者を引き寄せ、最終的には経済全体に波及していくことで経済発展が実現すると彼は考えました。
批評点
シュンペーターの理論は、経済発展におけるイノベーションの重要性を強調した点で画期的でしたが、同時にいくつかの点で批判を受けてきました。主な批判点は以下の通りです。
1. 企業家像の限定性
シュンペーターは、イノベーションを担う主体として「企業家」に焦点を当てましたが、その定義は、新しい技術や製品を開発するリスクを取る個人や小規模企業に偏っており、大企業における組織的な研究開発活動や、政府の役割などを十分に考慮していませんでした。
2. イノベーションの定義の曖昧さ
シュンペーターは「新結合」という幅広い概念を用いてイノベーションを説明しましたが、具体的にどのようなものが新結合に該当するのか、その定義は曖昧でした。この曖昧さは、彼の理論を実証的に検証することを困難にする要因の一つとなっています。
3. 経済発展の要因の限定
シュンペーターはイノベーションを経済発展の唯一の要因と見なしていましたが、実際には、人口増加、資本蓄積、教育水準の向上など、他の要因も経済発展に大きく影響を与えます。彼の理論は、これらの要因を軽視しているという批判があります。
4. 景気循環の説明の限界
シュンペーターは、新結合の出現と模倣の波が、景気循環の要因であると主張しました。しかし、彼の理論は、景気循環の周期性や、景気後退の原因など、景気循環に関する全てを説明できるわけではありません。
5. 現代経済への適合性の問題
シュンペーターの理論は、彼が生きていた20世紀初頭の資本主義経済を背景に構築されました。現代経済は、グローバル化、情報技術の進展、サービス経済化など、シュンペーターの時代とは大きく変化しており、彼の理論をそのまま現代に適用することには限界があります。
これらの批判点は、シュンペーターの理論が完全なものではないことを示唆しています。しかし、彼の理論は、イノベーションが経済発展に重要な役割を果たすという視点を提供し、その後のイノベーション研究に大きな影響を与えました。