## シュミットの政治的なものの概念に影響を与えた本:**トーマス・ホッブズの『リヴァイアサン』**
ホッブズの自然状態と権力への希求
トーマス・ホッブズの『リヴァイアサン』は、政治哲学に多大な影響を与えた古典であり、特にカール・シュミットの政治的なものの概念に深い影響を与えました。ホッブズは、国家が存在しない「自然状態」では、人間は自己保存の欲求と、限りある資源をめぐる競争によって支配されると論じました。この自然状態では、あらゆる人間が万人の敵となり、恐怖と暴力、そして死の危険が蔓延します。
リヴァイアサン:絶対的な主権者
このような悲惨な状態から脱却するために、人々は「社会契約」によって自然権の一部を放棄し、絶対的な権力を持つ主権者である「リヴァイアサン」を創造するとホッブズは主張します。リヴァイアサンは、国内の秩序と安全を維持し、外部からの脅威から人々を守るために必要な、法の制定と執行、そして武力の独占的な行使を担います。
シュミットへの影響:友敵の区別と政治性の本質
ホッブズの思想は、シュミットの政治的なものの概念の根幹を成す「友敵の区別」と、政治の本質は権力と決定にあるという考え方に大きな影響を与えました。シュミットは、ホッブズと同様に、政治を道徳や経済、宗教といった他の領域とは区別される独自の領域として捉え、その本質は究極的には敵との対決、すなわち戦争の可能性にあると主張しました。
政治的なものと例外状態
シュミットは、ホッブズの自然状態の概念を発展させ、「例外状態」の概念を提出し、主権者の権力の根源を明らかにしようとしました。例外状態とは、通常の法秩序が機能せず、主権者が敵との対決のために、法を超越した措置を取らざるを得ない状況を指します。シュミットは、このような危機的な状況においてこそ、政治的なものは最も純粋な形で現れると主張しました。
批判的な視点
ホッブズの『リヴァイアサン』は、シュミットの政治的なものの概念に大きな影響を与えましたが、シュミットはホッブズの思想をそのまま受け入れたわけではありません。シュミットは、ホッブズの自由主義的な側面を批判し、より現実主義的な政治観を提示しようとしました。しかし、両者の思想には、政治の本質に対する共通の認識、すなわち政治は権力と敵との対決によって規定されるという考え方が根底に流れていると言えます。