## シュミットの憲法理論に影響を与えた本:トーマス・ホッブズの『リヴァイアサン』
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国家の概念:絶対的主権と例外状態
カール・シュミットは、20世紀の最も影響力のある、そして物議を醸す政治思想家の一人として知られています。彼の憲法理論の中心には、政治を「敵と味方」の区別によって定義し、主権者を「例外状態」を決定する存在として位置付ける、という独自の視点が存在します。このシュミットの思想に大きな影響を与えた一冊として、17世紀イギリスの政治哲学者トーマス・ホッブズの主著『リヴァイアサン』が挙げられます。
ホッブズは、『リヴァイアサン』の中で、自然状態における人間の「万人の万人に対する闘争」状態から脱却し、安全と秩序を保障するために、人々が社会契約によって絶対的な主権を持つ国家を創造すると論じました。シュミットは、ホッブズのこの国家論、特に絶対的な主権の概念に共鳴し、自らの憲法理論の基礎として取り入れました。
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憲法と主権の力学:規範を超越する決断
シュミットは、憲法を単なる法規範の集まりと見なすのではなく、政治的な決断の産物として捉えました。そして、この決断を下す主権者の役割を特に重視しました。彼は、ホッブズが『リヴァイアサン』で描いた絶対的な主権者像を、まさにこのような決断を下し、必要とあらば既存の法秩序を一時停止してでも、国家の存続を保障する存在として解釈しました。
シュミットは、この主権者の権限を「例外状態」において発動されるものとして概念化しました。「例外状態」とは、自然災害、内乱、戦争など、通常の法秩序では対処できない緊急事態を指します。シュミットは、ホッブズが『リヴァイアサン』で論じたように、このような非常時には、主権者が自らの判断によって、法を超越した決断を下すことが正当化されると考えました。
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批判的な視点:リヴァイアサンの影
シュミットの憲法理論は、ホッブズの『リヴァイアサン』から多大な影響を受けつつも、その解釈には議論の余地が残されています。特に、シュミットが重視する「例外状態」の概念は、主権者の権力濫用や独裁の可能性を孕んでいるという批判もあります。
シュミットは、ホッブズの思想を、ワイマール共和国における政治的危機の文脈において解釈し、その結果、彼の理論は、ナチス政権による権力掌握を正当化する論拠として利用されることとなりました。ただし、シュミット自身はナチスのイデオロギーや政策を支持していたわけではありません。
ホッブズの『リヴァイアサン』は、シュミットの憲法理論を理解する上で欠かせない著作です。それは、シュミットの思想の根底にある、国家、主権、憲法に対する独自の視点を理解する上で重要な手がかりを与えてくれます。