## シェイクスピアの尺には尺をから学ぶ時代性
復讐の是非と法のあり方
「尺には尺を」は、旧約聖書の出エジプト記にも見られる「目には目を、歯には歯を」という復讐法をテーマとした言葉であり、当時の西洋社会における根深い価値観を示唆しています。劇中では、婚約者を亡くした主人公イザベラが、その復讐を果たそうとする姿が描かれています。しかし、彼女の行動は、私的な復讐がどこまで許されるのか、法と正義の境界線はどこにあるのかという、時代を超えて重要な問いを投げかけます。
当時のエリザベス朝時代は、中世的な価値観とルネサンス期の人文主義がせめぎ合う、過渡期にありました。復讐は、個人の名誉回復のための当然の権利として認められる一方で、社会秩序を乱すものとして、厳しく禁じられる側面も持ち合わせていました。
劇中で描かれる法廷や権力者の姿は、必ずしも公正とは言えず、むしろ恣意的で腐敗しているように見えます。この点において、シェイクスピアは、法の理想と現実の乖離を浮き彫りにし、観客に、法のあり方そのものについて深く考えさせています。
男女間の力関係と女性の立場
「尺には尺を」は、男性中心の社会における女性の生きづらさ、弱さを浮き彫りにする作品でもあります。イザベラは、修道院に入ることを望む敬虔な女性ですが、兄の窮地を救うため、アンジェロの不当な要求に立ち向かわなければなりません。
当時の女性は、政治、経済、社会のあらゆる面において男性に従属する立場にあり、自分の意思で運命を切り開くことは容易ではありませんでした。イザベラが直面する苦悩は、当時の女性たちが置かれていた状況を象徴的に示しています。
一方、劇中には、男装の麗人など、従来の女性像にとらわれない人物も登場します。これらの登場人物は、固定化された性役割に対する疑問を投げかける存在として、観客に、ジェンダーに対する新たな視点を提示します。
赦しと慈悲の重要性
復讐の連鎖がもたらす悲劇を描いた「尺には尺を」ですが、一方で、赦しと慈悲の重要性も重要なテーマとして描かれています。最終的に、復讐を果たす機会を得ながらも、イザベラは相手を赦す道を選びます。
この結末は、「目には目を」的な復讐の連鎖を断ち切るためには、赦しが必要であるというシェイクスピアのメッセージと解釈できます。