## シェイクスピアのヴェニスの商人から学ぶ時代性
1. 反ユダヤ主義とキリスト教社会の価値観
「ヴェニスの商人」は、ユダヤ人高利貸しシャイロックと、キリスト教徒の商人アントニオとの対立を中心に描かれています。シャイロックは、劇中で冷酷で復讐心に燃える人物として描かれ、当時のヨーロッパ社会に根強く存在した反ユダヤ主義を反映しています。彼はキリスト教徒から差別を受け、その憎しみをアントニオに向けるのです。
一方で、アントニオは友人であるバサーニオのために危険を冒してまでシャイロックから借金をする、寛大で自己犠牲的な人物として描かれています。彼の行動は、キリスト教の教えに基づいた愛と友情の価値観を象徴していると言えるでしょう。
2. 商業と物質主義の台頭
舞台となる16世紀のヴェネツィアは、地中海貿易の中心地として栄えた商業都市でした。劇中では、商取引や金銭貸借が頻繁に登場し、当時の社会における経済活動の重要性をうかがわせます。
アントニオは貿易で財を成した裕福な商人であり、バサーニオは彼の財産に頼っています。また、ポーシャの結婚の場面では、求婚者たちは彼女の美貌と財産に惹かれてやってきます。このように、「ヴェニスの商人」は、物質的な豊かさが重視された時代の風潮を映し出しています。
3. 男性中心社会における女性の立場
当時のヨーロッパ社会は男性中心社会であり、女性の立場は非常に限られていました。劇中でも、ポーシャは父親の遺言によって結婚相手を自由に選ぶことができず、求婚者たちは金貨、銀貨、鉛の3つの箱から正しいものを選ぶという試練を課せられます。
また、ポーシャは男装して法廷に乗り込むことで、知性と機転を活かしてアントニオを救おうとします。これは、当時の社会において女性が男性と同等の権利や自由を得ることができなかった現実を示唆しています。
4. 法律と慈悲の対立
劇のクライマックスでは、シャイロックとアントニオの契約の是非を巡って法廷で争われます。シャイロックは契約書に書かれた条文通りの判決を求めますが、ポーシャは「慈悲」の重要性を説き、彼に契約の破棄を求めます。
この対立は、当時の社会における「法の厳格な適用」と「人間の道徳観」のせめぎ合いを象徴しています。