## シェイクスピアのリチャード二世から学ぶ時代性
中世からルネサンスへ:揺らぐ神聖王権
リチャード二世が書かれた16世紀末のイングランドは、中世的な価値観が崩壊し、近代的な価値観が台頭し始めた時代でした。 特に、国王の権力は絶対的なものではなく、国民の支持によって支えられているという考え方が生まれつつありました。 このような時代背景は、リチャード二世という作品に色濃く反映されています。
劇中で描かれるリチャード二世は、自らのことを神から選ばれた存在だと信じて疑わず、国民の声に耳を傾けようとしません。 彼は自分の権力こそが絶対的なものであり、その権力は永遠に揺るぎないものだと考えているのです。 しかし、彼の傲慢な態度は次第に貴族たちの反感を買うようになり、最終的には王座を追われることになります。
「言葉」の力:政治とレトリックの変遷
リチャード二世では、「言葉」が重要なテーマとして浮上しています。 中世においては、言葉は単なるコミュニケーションツールではなく、神の意志を伝える神聖なものでした。 しかし、ルネサンス期に入ると、言葉は人間が操る道具として捉えられるようになり、雄弁さや説得力が重視されるようになります。
リチャード二世は、美しく詩的な言葉遣いを操る人物として描かれています。 しかし、彼の言葉は空虚で、現実の政治状況に対応できていません。 一方、対照的な人物として描かれるヘンリー・ボリングブルックは、率直で現実的な言葉を用いることで、人々の心を掴んでいきます。 この対比は、言葉の持つ力が、時代とともに変化していくことを示唆しています。
鏡よ鏡:自己とイメージの形成
ルネサンス期には、人間中心主義的な思想が広まり、個人としての自我への関心が高まりました。 リチャード二世もまた、自らの内面やイメージを深く意識する人物として描かれています。 彼は鏡を用いて自らの姿を何度も見つめ、自己憐憫に浸る場面が印象的です。
リチャード二世は、王としての役割を演じることに固執し、理想的な国王像を演出しようとします。 しかし、彼の作り上げたイメージは虚構に過ぎず、現実との乖離は次第に大きくなっていくのです。 このように、リチャード二世は、自己とイメージの形成という、ルネサンス期に特徴的なテーマを体現する存在として描かれていると言えるでしょう。