## シェイクスピアのリチャード三世を深く理解するための背景知識
薔薇戦争
シェイクスピアのリチャード三世は、イングランド史における動乱期、薔薇戦争（１４５５年～１４８５年）の終盤を描いた歴史劇です。薔薇戦争は、イングランド王位の継承権をめぐり、ランカスター家とヨーク家の二大貴族家系が争った内乱でした。ランカスター家は赤い薔薇を、ヨーク家は白い薔薇を家紋としていたことから、薔薇戦争と呼ばれています。劇中でリチャードが属するヨーク家は、エドワード三世の三男の系統にあたり、ランカスター家はエドワード三世の四男の系統にあたります。この複雑な家系図と、それに伴う王位継承権の争いが、薔薇戦争の背景にあります。
リチャード三世の人物像
劇中のリチャード三世は、生まれつき身体に障害を持ち、冷酷で野心的な人物として描かれています。彼は王位を簒奪するために、あらゆる手段を用いて邪魔者を排除していきます。シェイクスピアは、リチャードを悪の化身として描き出すことで、権力欲の危険性と、それがもたらす悲劇を強調しています。しかし、歴史上のリチャード三世が実際にどのような人物であったのかについては、議論が続いています。シェイクスピアの描いたリチャード三世は、テューダー朝のプロパガンダの影響を受けており、誇張された部分があると考えられています。近年では、リチャード三世を有能な君主として再評価する動きも見られます。
テューダー朝のプロパガンダ
薔薇戦争は、最終的にランカスター家の傍系であるヘンリー・テューダーがリチャード三世を破り、ヘンリー七世として即位することで終結します。テューダー朝は、自らの王位の正統性を主張するために、ヨーク家を悪者として描くプロパガンダを展開しました。シェイクスピアのリチャード三世も、このプロパガンダの影響を受けて書かれたと考えられています。テューダー朝のプロパガンダは、リチャード三世を極悪非道な人物として描くことで、ヘンリー・テューダーの勝利を正当化し、テューダー朝の支配を磐石なものにすることを目的としていました。
史実とフィクション
シェイクスピアのリチャード三世は、史実を基にした歴史劇ですが、史実と異なる部分も多くあります。例えば、劇中ではリチャードが兄エドワード四世の息子たち（プリンスたち）を殺害する場面が描かれていますが、実際には誰がプリンスたちを殺害したのかは、現在でも謎のままです。シェイクスピアは、劇的な効果を高めるために、史実を改変したり、創作を加えたりしています。リチャード三世を鑑賞する際には、史実とフィクションを区別し、シェイクスピアがどのような意図を持って作品を創作したのかを考えることが重要です。
中世イングランドの社会と文化
シェイクスピアのリチャード三世を深く理解するためには、当時のイングランドの社会と文化についても知っておく必要があります。中世イングランドは、封建制度に基づく身分社会であり、王や貴族が大きな権力を持っていました。また、キリスト教が人々の生活に深く根付いており、教会も大きな影響力を持っていました。劇中には、こうした社会背景を反映した描写が多く見られます。例えば、リチャードが王位を簒奪するために、貴族たちの支持を取り付けようとする場面や、教会を利用して自らの権力を正当化しようとする場面などが挙げられます。
シェイクスピアの劇作術
シェイクスピアのリチャード三世は、シェイクスピア初期の歴史劇に分類されます。シェイクスピアは、この作品において、リチャードの悪の魅力を描き出すとともに、権力闘争の残酷さを鮮やかに描写しています。また、リチャードの独白や、登場人物たちの巧みな言葉の応酬など、シェイクスピアならではの劇作術が随所に見られます。シェイクスピアの劇作術を理解することで、リチャード三世をより深く味わうことができます。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。