## シェイクスピアのリチャード三世と時間
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時間の流れの歪み
リチャード三世は、従来の歴史劇に見られるような、時間経過の明確な描写を避け、短い時間軸の中で劇的な展開を見せます。劇はリチャードの野望表明から始まり、わずか数年で彼の戴冠式、そしてボズワースの戦いでの死までが描かれます。
このような圧縮された時間軸は、リチャードの策略と行動のスピード感を強調し、観客に息つく暇を与えない緊張感を与えます。一方で、登場人物たちの心理描写や関係性の変化を描き込む余裕は少なく、その結果、人物造形はステレオタイプになりがちです。
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予言と運命
劇中では、予言や呪いが重要な役割を果たします。特に、マーガレットの呪いは、リチャードの未来だけでなく、劇全体に暗い影を落とします。これらの要素は、登場人物たちの運命が予め決められているかのような印象を与え、時間の不可逆性を強調します。
しかし、リチャード自身は運命に抗おうとする姿を見せます。彼は自らの意志で悪行を重ね、運命を自分の手で掴み取ろうとします。これは、シェイクスピアが自由意志と運命の関係性について、複雑な視点を提示していることを示唆しています。
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時間と良心
劇の後半、リチャードは自身の悪行に対する罪悪感に苛まれ始めます。過去の亡霊たちに悩まされるシーンは、彼が犯した罪の重さと、逃れられない時間の流れを象徴的に示しています。
リチャードの苦悩は、時間が必ずしも傷を癒すものではなく、逆に過去の罪を鮮明にすることもあるということを示唆しています。これは、時間に対する一般的な認識とは異なる視点であり、観客に人間の心理の複雑さを突きつけます。