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シェイクスピアのヘンリー六世 第三部に影響を与えた本

シェイクスピアのヘンリー六世 第三部に影響を与えた本

エドワード・ホール著『The Union of the Two Noble and Illustrious Families of Lancaster and York』

ウィリアム・シェイクスピアの歴史劇『ヘンリー六世 第三部』は、15世紀の薔薇戦争における王位継承を巡る争いを題材に、権力、野心、暴力の複雑な様相を描いています。シェイクスピアは、その複雑な歴史的出来事を劇的な構成にするにあたって、複数の資料から題材を得ていましたが、なかでも大きな影響を与えたとされるのが、エドワード・ホールの歴史書『The Union of the Two Noble and Illustrious Families of Lancaster and York』(1548年)です。この大著は、イングランド史、特に薔薇戦争を扱った包括的な記録であり、シェイクスピアの劇の筋立て、登場人物、テーマの多くに直接的な影響を与えました。

ホールの『The Union of the Two Noble and Illustrious Families of Lancaster and York』がシェイクスピアの『ヘンリー六世 第三部』に与えた影響は、まず劇の構成に見られます。ホールは年代順に歴史的事象を記録しており、シェイクスピアも劇中でこの時系列にほぼ沿っています。たとえば、第一次セント・オールバンズの戦い、ヨーク公リチャードによる王位請求、ウェイクフィールドの戦い、タウトンの戦いなどの重要な出来事は、両作品において同じ順序で起こります。シェイクスピアは、ホールの包括的な歴史記述から骨組みを借り、その上に劇的な筋立てを構築したのです。

シェイクスピアの劇における登場人物の描写にも、ホールの影響が色濃く表れています。たとえば、ホールはヨーク公リチャードを、野心家で抜け目がなく、最終的に悲劇的な運命をたどる人物として描写しており、これはシェイクスピアの劇におけるヨーク公の描写と一致しています。同様に、ホールはマーガレット・オブ・アンジューを、夫ヘンリー六世に代わって行動を起こす、意志が強く容赦のない人物として描いており、シェイクスピアの劇でも、彼女はまさにそのように描かれています。シェイクスピアは、登場人物の外見、性格、動機に関するホールの洞察を取り入れ、劇中で説得力のある複雑な人物像を創り上げています。

ホールの影響は、劇のテーマにも及びます。特に、運命の無常、権力のために堕落すること、戦争の破壊的な性質など、ホールの年代記に共通するテーマは、『ヘンリー六世 第三部』でも顕著に見られます。たとえば、王位を奪われたヘンリー六世の運命は、権力の不安定さと人間の野心の破壊的な性質を如実に物語っています。このテーマは、ホールの歴史記述全体に共通しており、薔薇戦争を、権力と野心を追い求めるあまり、国全体を混乱と流血に陥れた悲劇的な争いとして描いています。

シェイクスピアは、登場人物のセリフにも、ホールの作品から直接借りた箇所があります。たとえば、劇中でヨーク公が自分の主張を表明する際に述べる有名なセリフ「The crown is at my feet」(王冠は我が足元にある)は、ほぼそのままホールの年代記から引用されています。セリフの言い回しまでそのまま取り入れることで、シェイクスピアは歴史的事実に忠実であることを示すと同時に、劇に信憑性を持たせています。

全体的に見て、エドワード・ホールの『The Union of the Two Noble and Illustrious Families of Lancaster and York』は、ウィリアム・シェイクスピアの『ヘンリー六世 第三部』に多大な影響を与えた作品といえます。シェイクスピアは、ホールの歴史記述から、劇の筋立て、登場人物、テーマ、セリフに至るまで、様々な要素を借用しています。シェイクスピアは、ホールの包括的な年代記からインスピレーションを得ながら、歴史的事実を劇的な構成に仕立て直し、観客を15世紀の薔薇戦争に引き込み、権力、野心、暴力という普遍的なテーマについて考えさせられる作品を生み出したのです。

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