## シェイクスピアのヘンリー五世の思索
### ヘンリー王の成長と責任
ヘンリー五世は、かつて放蕩の限りを尽くしていたハル王子が、王としての責任を自覚し、成長していく過程を描いています。劇の冒頭では、遊び仲間のファルスタッフらと酒を酌み交わし、無責任な振る舞いを見せていたハル王子ですが、父王の死と王位継承をきっかけに、大きく変貌を遂げます。
彼は、フランスとの戦争という国家的な危機に直面し、王としての自覚と責任を強く意識するようになります。カンタベリー大司教との対話を通して、王位継承の正当性や戦争の倫理的な問題について深く考え抜き、最終的には、自らの決断でフランス遠征を決意します。
### 戦争の現実と理想
ヘンリー五世は、戦争の現実と理想の対比も鮮やかに描いています。劇中には、アジャンクールの戦いを前に、フランス軍とイギリス軍の兵士たちの様子が対照的に描かれています。
フランス軍は、その数は多いものの、驕り高ぶり、油断しています。一方、イギリス軍は、数では劣勢ながらも、ヘンリー王の鼓舞によって士気が高く、一致団結しています。
アジャンクールの戦いは、イギリス軍の圧倒的な勝利に終わりますが、この勝利は、単なる軍事力だけでなく、ヘンリー王のリーダーシップと兵士たちの団結力によってもたらされたものでした。
しかし、劇は、戦争の勝利を単純に賛美するものではありません。ヘンリー王自身、戦争の残酷さや悲惨さを痛感し、戦死者の冥福を祈る場面も描かれています。
### 人間としての葛藤
ヘンリー王は、王としての責任と理想を追求する一方で、人間としての弱さや葛藤も抱えています。彼は、フランス遠征中に、自らの決断の重圧や、兵士たちの命を預かる責任の重さを感じ苦悩します。
また、フランス王女キャサリンへの求婚の場面では、一国の王としての立場と、一人の男性としての感情との間で揺れ動く姿も見られます。
### 歴史劇としての視点
ヘンリー五世は、16世紀末のイギリスで上演された歴史劇であり、当時の観客は、劇の内容を自国の歴史と重ね合わせて見ていました。エリザベス1世の治世下、スペインとの戦争に勝利したイギリス国民にとって、ヘンリー五世は、理想的な君主像として映っていたと考えられます。
劇は、歴史的事実を脚色しながらも、戦争と平和、リーダーシップ、国民国家といった普遍的なテーマを扱っており、現代の観客にも多くのことを考えさせてくれます。