## シェイクスピアのヘンリー五世の思想的背景
イングランドにおける王権神授説
「ヘンリー五世」が書かれたエリザベス朝時代、イングランドでは**王権神授説**が広く信じられていました。これは、国王の権力は神から与えられたものであり、国王は神の代理人として統治すると考えられていました。劇中では、ヘンリー五世がフランス遠征に際して神の加護を求める場面や、大勝利を収めた後に神に感謝を捧げる場面が描かれており、王権神授説を強く意識した作品であることがうかがえます。
百年戦争と国民意識の高まり
「ヘンリー五世」は、14世紀から15世紀にかけてイングランドとフランスの間で断続的に続いた**百年戦争**を題材としています。劇中で描かれるアジャンクールの戦いは、イングランド軍が圧倒的に不利な状況にもかかわらずフランス軍に大勝利したことで、イングランドの人々に大きな希望と勇気を与えました。シェイクスピアはこの史実を基に、戦争を通じて高揚するイングランドの**国民意識**を劇的に表現しています。
理想の君主像
「ヘンリー五世」では、勇敢で決断力があり、民衆にも寄り添う理想的な君主としてのヘンリー五世の姿が描かれています。彼は戦争に勝利するためにあらゆる手を尽くし、時には冷酷な決断を下すこともありますが、一方で民衆の苦しみを理解し、彼らと喜びを分かち合う姿も示されます。シェイクスピアは、このような**理想の君主像**を提示することで、当時のイングランド女王エリザベス1世を暗に称賛していたとも考えられています。