## シェイクスピアのヘンリー五世と人間
###
ヘンリー五世の人間性
戯曲「ヘンリー五世」は、若き王ヘンリー五世が、フランスとの戦争、そして王としての責任に向き合う姿を描いています。彼はカリスマ性溢れるリーダーであり、勇敢な戦士、そして狡猾な戦略家として描かれています。しかし、彼の内面には葛藤や不安も見え隠れします。
例えば、劇の冒頭では、ヘンリーは聖職者カンタベリー大主教の言葉を借りて、フランス王位継承権の主張を正当化しようとします。これは、彼が自身の野心と、戦争という行為の道徳性の間で葛藤していることを示唆しています。
また、アジャンクールの戦い前夜には、変装して兵士たちの間を歩き回り、彼らの本音を聞こうとします。これは、王としての孤独や不安、そして民衆の視線に対する意識の表れと言えるでしょう。
###
人間の光と影
「ヘンリー五世」は、戦争という極限状態を通して、人間の本質に迫る作品でもあります。勇気、忠誠心、愛国心といった高潔な感情だけでなく、 страх、裏切り、残虐性といった負の側面も赤裸々に描かれています。
例えば、フランス皇太子ドーファンは傲慢で軽率な人物として描かれ、その対比としてヘンリーの知性と冷静さが際立ちます。一方、イングランド側の登場人物であるフォルスタッフの仲間たちは、戦争によって道徳観念が麻痺していく様子が描かれ、人間の弱さや愚かさを浮き彫りにしています。
このように、「ヘンリー五世」は、登場人物たちの複雑な心理描写や、戦争の現実と理想の対比を通して、人間存在の光と影を鮮やかに描き出しています。