## シェイクスピアのハムレットに関連する歴史上の事件
エリザベス朝の宮廷陰謀と継承問題
「ハムレット」が書かれた時代、イングランドはエリザベス１世の治世下にありました。エリザベスは生涯独身を貫き、後継者を指名せずに亡くなったため、王位継承問題が常に政治的緊張の種となっていました。劇中のデンマーク王国の不安定な情勢は、当時のイングランドが抱えていた王位継承問題と重なる部分が多く、観客は自身の置かれた状況と重ね合わせて劇を鑑賞していたと考えられます。
実際に、エリザベス１世の死後、スコットランド王ジェームズ６世がイングランド王ジェームズ１世として即位しましたが、この継承劇の裏では様々な陰謀や策略が渦巻いていたと言われています。劇中のクローディアスによる先王殺害と王位簒奪は、こうしたエリザベス朝末期の不安定な政治状況を反映しているのかもしれません。
北欧の伝説と復讐の悲劇
「ハムレット」の物語は、12世紀に活躍したデンマークの歴史家サクソ・グラマティクスが記した「デンマーク人の事績」に登場するアムレートの伝説を基にしています。この伝説は、既に中世ヨーロッパでは広く知られており、復讐の連鎖を描いた悲劇として語り継がれてきました。
シェイクスピアは、この北欧の伝説を題材に、人間の心の奥底に潜む葛藤や欲望、復讐の虚しさなどを描き出しました。劇中に登場する幽霊や復讐のモチーフは、当時の観客にとって身近なものであり、彼らの恐怖心や不安をかき立てる効果を持っていたと考えられます。
宗教改革と罪の意識
「ハムレット」が書かれた16世紀後半から17世紀初頭にかけて、ヨーロッパはカトリックとプロテスタントの対立による宗教改革の真っ只中にありました。イングランドもヘンリー8世の宗教改革によってカトリックから離脱し、その後も宗教をめぐる混乱が続いていました。
劇中でハムレットは、父の死後、叔父クローディアスと母の結婚という道徳的に許されない行為に直面し、苦悩します。彼の苦悩は、当時の宗教的な価値観の変動や罪の意識と深く関連していると考えられます。
ルネサンス思想と人間の内面
「ハムレット」が書かれた時代は、中世の価値観から脱却し、人間中心主義的なルネサンス思想が台頭してきた時代でもありました。劇中では、ハムレットの葛藤や苦悩を通して、人間の理性や感情、道徳、自由意志といったテーマが深く掘り下げられています。
ハムレットは、単なる復讐者ではなく、倫理観、知性、感性を併せ持つ複雑な人間として描かれています。これは、ルネサンス期における人間観の変容を反映していると言えるでしょう。
このように、「ハムレット」は、エリザベス朝の宮廷陰謀、北欧の伝説、宗教改革、ルネサンス思想など、様々な歴史的背景と関連付けながら読み解くことができます。シェイクスピアは、当時の社会状況や人々の不安を巧みに作品に織り込み、時代を超えて愛される普遍的な人間ドラマを創造したのです。