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シェイクスピアのトロイラスとクレシダを深く理解するための背景知識

## シェイクスピアのトロイラスとクレシダを深く理解するための背景知識

トロイア戦争とその起源

トロイラスとクレシダは、ホメロスによって叙事詩「イリアス」で歌われたトロイア戦争を題材とした戯曲です。トロイア戦争は、ギリシャ神話において、ギリシャ軍とトロイア軍の間で10年間繰り広げられたとされる伝説的な戦争です。その起源は、スパルタ王メネラオスの妻ヘレンが、トロイアの王子パリスに連れ去られたことに端を発します。ヘレンを取り戻すため、メネラオスの兄でありミュケナイ王のアガメムノンは、ギリシャの各都市国家の王たちを率いてトロイア遠征に乗り出します。アキレウス、オデュッセウス、アヤックスといったギリシャ側の英雄たちと、ヘクトル、パリス、アイネイアースといったトロイア側の英雄たちが激突する壮大な戦いが繰り広げられました。

シェイクスピア以前のトロイア物語の受容

ホメロスの「イリアス」は、トロイア戦争の10年間のうち、アキレウスの怒りを中心としたわずか51日間の出来事を描いたものです。しかし、トロイア戦争とその前後の物語は、古代ギリシャ・ローマにおいて様々な形で語り継がれ、多くの文学作品を生み出しました。例えば、ウェルギリウスの叙事詩「アエネーイス」は、トロイア陥落後のアイネイアースの冒険を描いており、ローマ建国の起源譚となっています。また、中世ヨーロッパにおいても、トロイア物語は広く知られていました。12世紀のフランスの詩人ブノワ・ド・サント=モールは、「ロマンス・ド・トロワ」の中で、トロイア戦争全体の物語を包括的に描き、トロイア王家の祖先をフランク王国の祖先と結びつけることで、フランス王家の権威を高めようとしていました。

シェイクスピアのトロイラスとクレシダにおけるトロイア戦争の描写

シェイクスピアは、これらの先行作品を参考にしながら、独自の解釈を加えて「トロイラスとクレシダ」を創作しました。彼の作品は、「イリアス」のように戦争の英雄的な側面を強調するのではなく、戦争の悲惨さや人間の愚かさ、愛の儚さを描き出すことに重点を置いています。トロイラスとクレシダの悲恋は、戦争という大きなうねりの中で翻弄される個人の運命を象徴しています。また、ギリシャ側の英雄であるアキレウスやアヤックスは、傲慢で名誉欲に駆られた人物として描かれ、トロイア側の英雄であるヘクトルも、戦争の残酷さに苦悩する姿が描かれています。シェイクスピアは、トロイア戦争を単なる英雄譚としてではなく、人間の普遍的な問題を映し出す鏡として捉えていたと言えるでしょう。

エリザベス朝イングランドとトロイア物語

シェイクスピアが「トロイラスとクレシダ」を執筆したエリザベス朝イングランドにおいても、トロイア物語は広く知られていました。エリザベス1世は、自らをトロイア戦争の英雄であるアエネーイスの子孫であると主張し、イングランドの王権の正統性を強調しました。また、トロイア戦争は、イングランドとスペインの対立を象徴するものとしても捉えられていました。スペインはカトリック教国であり、イングランドはプロテスタント国であったため、両国の対立は宗教的な対立でもありました。イングランドの人々は、自らをギリシャ軍、スペインをトロイア軍になぞらえ、スペインとの戦いを正義の戦いであると認識していました。

シェイクスピアの劇における登場人物の性格

シェイクスピアの「トロイラスとクレシダ」は、トロイア戦争を舞台に、トロイラスとクレシダの悲恋、英雄たちの葛藤、戦争の残酷さなどを描いた作品です。登場人物たちはそれぞれ個性的な性格を持っており、彼らの行動やセリフは、物語の展開に大きく影響を与えています。

例えば、トロイラスは、若く情熱的なトロイアの王子であり、クレシダに深く恋をしています。彼は戦争に対しては懐疑的な立場を取り、愛を何よりも大切にしています。クレシダは、トロイアの貴族の娘であり、美しく聡明な女性です。彼女はトロイラスの愛を受け入れますが、戦争の混乱の中でギリシャ側に引き渡され、そこでギリシャの英雄ディオメデスに心を移してしまいます。アキレウスは、ギリシャ軍最強の英雄ですが、傲慢で名誉欲が強く、自分の思い通りにならないことがあると怒り狂います。ヘクトルは、トロイア軍の総大将であり、勇敢で高潔な人物です。彼は戦争の悲惨さを目の当たりにし、苦悩しながらもトロイアを守るために戦います。

シェイクスピアの劇における言語表現

シェイクスピアの「トロイラスとクレシダ」は、詩的な言語表現が特徴的な作品です。シェイクスピアは、登場人物たちの感情や状況を表現するために、比喩や隠喩、擬人化などの修辞技法を巧みに用いています。また、登場人物たちのセリフは、韻文で書かれていることが多く、そのリズム感や音の響きも、作品の雰囲気を盛り上げています。シェイクスピアの言語表現は、現代の読者にとっては難解に感じることもありますが、その美しさや深みを味わうためには、原文で読むことをお勧めします。

これらの背景知識を踏まえることで、シェイクスピアの「トロイラスとクレシダ」をより深く理解し、その魅力をより一層味わうことができるでしょう。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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