## シェイクスピアのトロイラスとクレシダの案内
トロイラスとクレシダの創作年代とテキスト
「トロイラスとクレシダ」が書かれた正確な年代は不明ですが、現存する最古の出版記録は1609年の書籍出版業組合記録に遡ります。この記録には、同年中に二つの版が出版されたことが記されています。一つは「良い」クォート版、もう一つは「悪い」フォリオ版として知られています。クォート版のタイトルページには、この劇が既にグローブ座で上演されたことが記されていますが、フォリオ版の序文では、この作品は「決して演じられたことがない」と主張されています。これらの矛盾する情報は、研究者の間で様々な憶測を呼んでいますが、決定的な結論には至っていません。
トロイラスとクレシダの出典
シェイクスピアはこの劇の筋書きを、主にジェフリー・チョーサーの詩「トロイラスとクリセイデ」と、ホメロスによる叙事詩「イーリアス」から借用しています。ただし、シェイクスピアはこれらの先行作品を単に翻案するのではなく、独自の解釈を加え、登場人物の性格や物語の展開に独自の深みを与えています。
トロイラスとクレシダのジャンル
「トロイラスとクレシダ」は、その複雑な構成と多様なトーンから、明確なジャンルに分類することが困難な作品です。喜劇、悲劇、史劇、問題劇など、様々な要素が混在しており、研究者の間でも意見が分かれています。このジャンル的な曖昧さは、シェイクスピアの意図的な選択である可能性もあり、観客に一筋縄ではいかない複雑な感情体験を提供しています。
トロイラスとクレシダの登場人物
この劇には、トロイア戦争を舞台に、ギリシャ側とトロイア側の両陣営から多くの登場人物が登場します。主要な登場人物としては、タイトルロールであるトロイアの若き英雄トロイラスと、トロイアの老雄カルカスの娘クレシダ、トロイアの王子にして勇敢な戦士ヘクトル、ギリシャ軍の総大将アガメムノン、知略に長けたギリシャの英雄ユリシーズなどが挙げられます。
トロイラスとクレシダのテーマ
「トロイラスとクレシダ」では、愛と戦争、名誉と裏切り、理想と現実といった普遍的なテーマが、登場人物たちの葛藤を通して描かれています。トロイラスとクレシダの悲恋は、戦争という過酷な状況下における愛の脆さを浮き彫りにし、英雄たちの行動は、名誉や忠誠心といった価値観の相対性を問いかけています。