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シェイクスピアのタイタス・アンドロニカスから学ぶ時代性

シェイクスピアのタイタス・アンドロニカスから学ぶ時代性

ローマ帝国への憧憬と野蛮性への恐怖

「タイタス・アンドロニカス」は古代ローマを舞台としていますが、その時代考証は必ずしも正確ではなく、むしろエリザベス朝時代の観客が持つ古代ローマのイメージを反映していると言えます。当時のイギリスは、自らをローマ帝国の後継者と見なし、その栄光と秩序に憧れを抱いていました。劇中でタイタスは、ローマの伝統と秩序を体現する英雄として描かれています。彼は、長年の戦争でローマに勝利をもたらし、捕虜の扱いにも厳格な法律を適用しようとします。これは、強大な帝国であるローマの、そしてそれを理想とするエリザベス朝イギリスの秩序を象徴していると言えるでしょう。

一方で、劇中にはローマの秩序を脅かす「野蛮人」も登場します。ゴート族の女王タモーラとその息子たちは、ローマ人とは異なる価値観や倫理観を持ち、残虐な行為を繰り返します。彼らの存在は、当時のイギリス人が抱いていた外部世界への恐怖、特に未開で野蛮な存在に対する脅威を反映していると考えられています。

復讐の連鎖と正義の在り方

「タイタス・アンドロニカス」は、復讐の連鎖がもたらす悲劇を描いた作品でもあります。タイタスとタモーラの間で繰り広げられる復讐劇は、当時のイギリス社会における「血の復讐」の概念を反映しています。

「血の復讐」とは、被害者とその家族が、加害者とその家族に対して直接復讐を行うという慣習です。これは、中央集権的な司法制度が未発達な時代に、私的な制裁によって秩序を維持しようとする試みでした。劇中では、タイタスは息子たちの敵を討つため、またタモーラはタイタスへの復讐心から、それぞれ残虐な行為に手を染めていきます。

しかし、彼らの復讐は新たな復讐を生み、最終的には両家ともに滅亡へと向かうことになります。シェイクスピアは、この作品を通して、私的な復讐の不毛さと、法と秩序の重要性を訴えかけているのかもしれません。

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