## シェイクスピアのジョン王の周辺
執筆年代と初演
「ジョン王」の正確な執筆年代は不明ですが、一般的には1590年代後半と考えられています。これは、劇中の文体やテーマが、この時期の他のシェイクスピア作品と類似しているためです。記録に残る最古の公演は1598年で、フランシス・メレスの「ウィットの財宝」に記載されています。
史劇としての位置づけ
「ジョン王」は、シェイクスピアのイングランド史劇の一つに数えられます。これらの歴史劇は、リチャード2世からリチャード3世までの時代を年代順に描いたもので、「ジョン王」はこの流れの中に位置付けられます。ただし、「ヘンリー8世」を除いて、シェイクスピアの歴史劇に続編や前編の関係はありません。
史実との関係
「ジョン王」は史実に基づいていますが、シェイクスピアは劇的な効果を高めるために、歴史的な出来事を脚色したり、登場人物の性格を強調したりしています。例えば、劇中で重要な役割を果たすアーサー王子殺害の真相は、歴史的には定かではありません。
主要なテーマ
「ジョン王」では、正当な王権、権力と腐敗、個人の良心と政治的責任など、複雑なテーマが描かれています。また、戦争の悲惨さや、政治的策略の醜悪さなども、重要なテーマとして挙げられます。
登場人物
「ジョン王」には、個性的な登場人物が数多く登場します。
* **ジョン王:** イングランド王。王位継承の正当性に疑問符がつき、フランスとの戦争に敗北するなど、苦難の連続に直面する。
* **アーサー王子:** ジョンの甥で、王位継承権を持つ少年。その純粋さゆえに、権力闘争の犠牲となる。
* **フィリップ・ザ・バスタード:** リチャード1世の庶子。持ち前の機転と勇気で頭角を現し、複雑な立場でジョン王に仕える。
* **コンスタンス:** アーサー王子の母。息子の王位を強く望み、そのためにあらゆる手段を尽くそうとする。
劇中の有名な場面
「ジョン王」には、文学史に名を刻む印象的な場面がいくつかあります。
* **アーサー王子の殺害:** 権力に目がくらんだジョン王が、無垢な少年であるアーサー王子を殺害するように命じる場面は、権力の腐敗を象徴する悲劇的なシーンとして知られています。
* **フィリップ・ザ・バスタードの独白:** 戦争の無益さと人間の愚かさを痛感したバスタードが、有名な「Commodity, the bias of the world」の独白を述べる場面は、人間の欲望と道徳の葛藤を浮き彫りにする重要なシーンです。
後世への影響
「ジョン王」は、シェイクスピアの四大悲劇と比べると上演機会は少ないものの、その力強いテーマと登場人物造形は、後世の文学や演劇に大きな影響を与えてきました。特に、権力と道徳のジレンマ、戦争の悲惨さといった普遍的なテーマは、現代社会においてもなお重要な意味を持ち続けています。