シェイクスピアのコリオレイナスを深く理解するための背景知識
古代ローマの歴史と社会
シェイクスピアの戯曲「コリオレイナス」は、古代ローマ共和国初期、紀元前5世紀を舞台としています。この時代は、ローマが王政から共和制に移行したばかりの激動の時代であり、貴族階級であるパトリキと平民階級であるプレブスとの間で激しい政治的対立が繰り広げられていました。パトリキは、伝統的な権力と特権を維持しようとし、プレブスは、政治への参加と権利の拡大を求めていました。この対立は、ローマ社会の不安定さの一因となり、しばしば暴力的な衝突に発展しました。
ローマの政治体制
共和制ローマの政治体制は、複雑で、さまざまな機関が権力を共有していました。元老院は、パトリキによって構成され、国家の重要事項について審議し、決定する権限を持っていました。民会は、プレブスによって構成され、法律の制定や官吏の選出など、プレブスの権利を守る役割を担っていました。執政官は、国家の最高官職であり、元老院と民会の両方から選出されました。護民官は、プレブスの権利を守るために設置された官職であり、元老院の決定に対して拒否権を行使する権限を持っていました。
プルタークスの「対比列伝」
シェイクスピアは、「コリオレイナス」の創作にあたり、古代ギリシャの歴史家プルタークスの「対比列伝」を主な資料として使用しました。「対比列伝」は、古代ギリシャとローマの著名な人物の伝記を対比的に記述した書物であり、コリオレイナスの伝記も含まれています。シェイクスピアは、プルタークスの記述を忠実に脚色し、登場人物の性格や物語の展開を描き出しています。
ローマの軍事
古代ローマは、強力な軍事力を持つ国家であり、周辺諸国との戦争を繰り返していました。ローマ軍は、市民兵によって構成され、厳しい訓練と規律によって知られていました。軍隊での功績は、ローマ社会において高く評価され、政治的な地位向上につながることもありました。コリオレイナスは、優れた軍人として活躍し、ローマのために多くの戦功を挙げましたが、その傲慢な性格が災いし、政治的な争いに巻き込まれていきます。
ローマの価値観
古代ローマ社会においては、名誉、義務、忠誠心、勇気といった価値観が重視されていました。これらの価値観は、ローマ人の行動規範となり、社会秩序を維持する役割を果たしていました。コリオレイナスは、これらの価値観を体現した人物として描かれていますが、同時に、その極端なまでの誇りと頑固さが、彼自身の悲劇を招く原因となります。
エリザベス朝イングランドの社会
シェイクスピアが「コリオレイナス」を執筆したエリザベス朝イングランドは、社会的な階層が明確に区分された時代でした。貴族階級は、特権的な地位を享受し、政治や経済において大きな影響力を持っていました。一方、平民階級は、厳しい生活を強いられ、政治的な権利も制限されていました。シェイクスピアは、古代ローマの社会とエリザベス朝イングランドの社会との類似性に着目し、「コリオレイナス」を通じて、権力、階級闘争、政治的混乱といった普遍的なテーマを探求しています。
これらの背景知識を理解することで、「コリオレイナス」の登場人物たちの行動や心理、物語の展開、そしてシェイクスピアが作品に込めたメッセージをより深く理解することができます。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。