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シェイクスピアのアントニーとクレオパトラを深く理解するための背景知識

シェイクスピアのアントニーとクレオパトラを深く理解するための背景知識

歴史上の人物アントニーとクレオパトラ

シェイクスピアの戯曲「アントニーとクレオパトラ」は、ローマの将軍マルクス・アントニウス(英語読みでマーク・アントニー)とエジプト最後の女王クレオパトラ7世の恋愛と政治的闘争を描いています。劇中で描かれる彼らの関係は、歴史上の出来事に基づいています。アントニウスは、カエサル暗殺後のローマの三頭政治の一角を担う有力者であり、優れた軍事的才能を持つ将軍でした。クレオパトラは、プトレマイオス朝の最後の女王であり、エジプトをローマの支配から守るために政治的な手腕を発揮しました。

歴史上、アントニウスとクレオパトラは紀元前41年に出会い、恋に落ちます。クレオパトラはアントニウスの子を産み、二人は事実上の夫婦としてエジプトで暮らしました。しかし、アントニウスはローマにも妻と子供がおり、この関係はローマで大きなスキャンダルとなります。さらに、アントニウスのエジプトびいきとクレオパトラへの寵愛は、もう一人の三頭政治家オクタウィアヌス(後の初代ローマ皇帝アウグストゥス)との対立を深めます。

紀元前31年、アントニウスとクレオパトラの連合軍は、オクタウィアヌス率いるローマ軍とアクティウムの海戦で激突します。この戦いでアントニウスとクレオパトラは敗北し、エジプトに逃れます。オクタウィアヌスがエジプトに侵攻すると、アントニウスはクレオパトラの裏切りを信じ、自害します。クレオパトラもまた、オクタウィアヌスの捕虜となることを避けるため、毒蛇にかませて自害したと伝えられています。

シェイクスピアの時代におけるローマとエジプト

シェイクスピアが「アントニーとクレオパトラ」を執筆した17世紀初頭のイギリスでは、古代ローマとエジプトはそれぞれ異なるイメージで捉えられていました。ローマは、共和政から帝政へと移行し、広大な領土を支配した強大な帝国として、政治体制や軍事戦略のモデルと見なされていました。一方、エジプトは、古代文明の発祥地であり、神秘的な宗教や文化を持つエキゾチックな国として認識されていました。

シェイクスピアは、当時のローマ史やエジプトに関する文献を参考にしながら、劇中でローマとエジプトを対比的に描いています。ローマは、秩序と理性、男性的原理を象徴する世界として描かれ、エジプトは、情熱と官能、女性的原理を象徴する世界として描かれています。アントニウスとクレオパトラの恋愛は、この対照的な二つの世界の衝突と葛藤を象徴するものであり、彼らの悲劇的な結末は、理性と情熱、義務と欲望の対立がもたらす破滅を描いたものと言えるでしょう。

シェイクスピアの原作と創作

シェイクスピアは、「アントニーとクレオパトラ」の主要な筋書きを、古代ローマの歴史家プルタルコスの「英雄伝」から得ています。プルタルコスの「英雄伝」は、古代ギリシャとローマの著名な人物の伝記を集めたものであり、シェイクスピアを含む多くのルネサンス期の作家に影響を与えました。

シェイクスピアは、プルタルコスの記述を忠実に再現するのではなく、独自の解釈と創作を加えて劇を構成しています。例えば、歴史上ではアントニウスとクレオパトラの出会いは政治的な駆け引きが色濃く、恋愛感情は後から芽生えたとされていますが、シェイクスピアの劇では、二人の出会いは激しい情熱的な恋愛として描かれています。また、クレオパトラの性格についても、シェイクスピアは歴史上の記述よりもさらに複雑で多面的 な人物として描き出しています。

シェイクスピアは、歴史的事実をベースにしながらも、登場人物の心理や葛藤を深く掘り下げ、人間の普遍的なテーマである愛と欲望、権力と野心、理性と情熱などを探求することで、時代を超えて共感される悲劇を生み出しました。

エリザベス朝時代の政治と社会

シェイクスピアが活躍したエリザベス朝時代(1558年~1603年)のイギリスは、絶対王政のもとで国家が統一され、経済的にも文化的にも繁栄期を迎えていました。しかし、同時に、国内では宗教対立や階級闘争が激化し、対外的にはスペインとの覇権争いが繰り広げられていました。

このような時代背景は、シェイクスピアの劇にも影響を与えています。「アントニーとクレオパトラ」においても、ローマの政治的混乱や権力闘争、エジプトの異文化との接触などは、当時のイギリス社会が抱えていた問題を反映していると考えられます。また、クレオパトラのような強い女性像は、エリザベス1世という強力な女王が君臨した時代の影響を反映しているとも解釈できます。

ルネサンス期の演劇

シェイクスピアが活躍したルネサンス期は、古代ギリシャ・ローマの文化が見直され、芸術や学問が大きく発展した時代でした。演劇もまた、古代ギリシャ悲劇の影響を受け、人間の情念や運命をテーマにした作品が多く創作されました。

シェイクスピアは、ルネサンス期の演劇の伝統を受け継ぎながら、独自 の劇作術を確立しました。彼の劇は、登場人物の心理描写の深さ、詩的な言語表現の美しさ、悲劇と喜劇、高尚と卑俗など、さまざまな要素を融合させた構成などが特徴です。「アントニーとクレオパトラ」もまた、シェイクスピアの劇作術の粋を集めた作品と言えるでしょう。

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