シェイクスピアの『ヴェニスの商人』に影響を与えた本
ジョバンニ・フィオレンティーノ作『イル・ペコローネ』 (1378年)
ジョバンニ・フィオレンティーノ作の物語集『イル・ペコローネ』(1378年) は、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』に大きな影響を与えたと考えられる作品の一つです。特に、第4日目、第1話に収められた「肉切り裁判」の物語は、その筋書きや登場人物、テーマにおいて『ヴェニスの商人』と多くの共通点が見られます。
「肉切り裁判」は、ベルフォンテという若者が、裕福なユダヤ人シャイロックの好意で、友人アンサルドのために1000ドゥカートを借ります。シャイロックは、返済期限までに返済できなかった場合は、アンサルドの肉を1ポンド切り取るとの条件を提示します。アンサルドは約束手形にサインしますが、期限内に返済ができなくなり、裁判にかけられます。裁判では、シャイロックは契約通りの肉切りを要求しますが、アンサルドの恋人である女性が弁護士に変装して登場し、契約の不備を突いてアンサルドを救います。
この物語と『ヴェニスの商人』の類似点は明らかです。 裕福なユダヤ人金貸し、肉切り契約、裁判での逆転劇といった要素は、両作品に共通して見られます。 また、シャイロックとアンサルドの関係は、シャイロックとアントニオの関係を彷彿とさせます。 さらに、両作品とも、法と慈悲、物質主義と愛、異文化間の対立といったテーマを扱っています。
『イル・ペコローネ』は、当時イタリアで広く読まれていた物語集であり、シェイクスピアもこの作品を知っていた可能性は高いと考えられます。 シェイクスピアは、この物語を基に、独自の解釈を加え、より複雑で深みのある作品を作り上げたと言えるでしょう。