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シェイクスピア「トロイラスとクレシダ」の形式と構造

シェイクスピア「トロイラスとクレシダ」の形式と構造

劇のジャンルとしての位置づけ

「トロイラスとクレシダ」は、シェイクスピアが1602年頃に書いたとされる作品で、古代ギリシャの叙事詩「イリアス」に基づいています。この劇は、一般的に悲劇と喜劇の要素を併せ持つ「問題劇」または「暗黒劇」と分類されます。このジャンルの特徴は、従来の喜劇や悲劇に収まらない複雑なテーマやモラルの問題を提示することにあります。

構造と形式の特徴

「トロイラスとクレシダ」は5幕から成り立っており、シェイクスピアの他の多くの作品と同様の構造を持ちます。しかし、この劇の特異性は、その展開と結末にあります。トロイ戦争という壮大な背景に対して、個々のキャラクターの心理描写が深く、複雑な人間関係が交錯しています。

1. **序幕**: 物語の導入部分で、トロイの王子トロイラスがクレシダに恋をする様子が描かれます。また、同時に戦争の状況や他のキャラクターたちの立場が提示されます。
2. **中幕**: トロイラスとクレシダの恋愛が進展する一方で、戦争の進行やアキレスとヘクトールとの対比が描かれる。クレシダの父カルカスとの取引により、クレシダはギリシャ陣営に移されることになります。
3. **終幕**: クレシダの裏切りが明らかになり、トロイラスは絶望します。また、ヘクトールの死が劇的に描かれ、戦争の虚しさが強調されます。

言語的特徴と対話のスタイル

シェイクスピアはこの劇で、特に言語を巧みに操り、登場人物たちの心理状態を深く掘り下げています。多くの場面で対話やモノローグが用いられ、登場人物の内面や葛藤が細かく描写されています。状況に応じた言葉選びや韻文、散文の使い分けもこの劇の特徴的な要素です。

テーマとモチーフ

「トロイラスとクレシダ」は愛と戦争という普遍的なテーマを扱っていますが、そのアプローチは独特です。愛の不確かさや裏切り、戦争の無意味さや人間の道徳性の探求など、深い人間ドラマが展開されます。また、登場人物たちのアイロニーを含んだセリフや行動が、劇全体に緊張感と皮肉をもたらしています。

この作品における形式と構造の深い理解は、シェイクスピアの劇作術と人間観の理解に貢献するものです。

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