サン・シモンの産業者の教理問答に影響を与えた本
ジャン＝ジャック・ルソー『社会契約論』の影響
クロード＝アンリ・ド・サン＝シモン伯爵の『産業者の教理問答』（1823-24）は、産業階級の重要性を主張し、社会における彼らの役割を提唱した作品です。サン＝シモンは産業社会の到来を予見し、科学と技術が社会進歩の鍵となると考えました。
サン＝シモンの思想に大きな影響を与えた作品の一つに、ジャン＝ジャック・ルソーの『社会契約論』（1762）があります。ルソーは、人間は本来自由で平等であるにもかかわらず、社会制度によって不平等や抑圧が生じていると主張しました。そして、社会の構成員全員が参加し、共通の利益となるような社会契約に基づいた政治体制の必要性を訴えました。
ルソーの影響：一般意志と共同体意識
サン＝シモンはルソーの「一般意志」の概念を自身の思想に取り入れました。ルソーは、社会全体の共通善を体現する「一般意志」こそが政治の指針となるべきだと主張しました。サン＝シモンは、産業階級こそがこの「一般意志」を最もよく体現する存在であると考え、彼らが社会を指導すべきだと主張しました。
また、サン＝シモンはルソーの共同体意識の重視にも影響を受けています。ルソーは、個人の利益よりも共同体の利益を優先する社会こそが望ましいと主張しました。サン＝シモンも同様に、産業社会においては、個人主義的な競争よりも、協調と連帯に基づいた社会秩序が重要であると考えました。
ルソーの限界とサン＝シモンの独自性
ただし、サン＝シモンはルソーの思想をそのまま受け入れたわけではありません。ルソーは、私有財産を不平等の根源とみなし、それを制限する必要性を説きましたが、サン＝シモンは私有財産を認めつつも、それを社会全体の利益のために活用すべきだと考えました。
また、ルソーは直接民主制を理想としていましたが、サン＝シモンは産業技術者など、専門知識を持ったエリートによる指導体制を構想していました。このように、サン＝シモンはルソーの思想を批判的に継承しつつ、自身の独自の社会構想を展開していったのです。