サンデルのこれからの「正義」の話をしようを深く理解するための背景知識
正義論の歴史における位置づけ
サンデルの「これからの「正義」の話をしよう」は、現代における正義論、とりわけ政治哲学の議論をわかりやすく紹介し、読者をその議論に巻き込むことを目的とした著作です。正義論は、古代ギリシャの哲学者プラトンやアリストテレスの時代から続く、人類にとって根源的な問いを探求する学問分野です。
古代ギリシャにおける正義論：プラトンとアリストテレス
プラトンは、その代表作である「国家」において、正義とは個人の魂における徳の調和であると同時に、国家における各階級の役割分担と秩序であると論じました。一方、アリストテレスは、「ニコマコス倫理学」や「政治学」において、正義を分配的正義と矯正的正義に分け、それぞれが社会における資源の適切な配分と、不当な行為に対する是正に関わるものであるとしました。
近代における社会契約論：ホッブズ、ロック、ルソー
近代に入ると、社会契約論が正義論の中心的なテーマとなりました。トマス・ホッブズは、「リヴァイアサン」において、自然状態における人間の闘争状態を克服するために、絶対的な権力を持つ主権者にすべてを委ねる社会契約が必要であると主張しました。ジョン・ロックは、「統治二論」において、自然権としての生命、自由、財産の保障を重視し、限定的な政府による統治を主張しました。ジャン＝ジャック・ルソーは、「社会契約論」において、一般意志に基づく人民主権を提唱し、自由と平等の実現を目指しました。
功利主義：ベンサムとミル
18世紀後半から19世紀にかけて、功利主義が台頭しました。ジェレミー・ベンサムは、「道徳および立法の諸原理序説」において、最大多数の最大幸福を追求することを道徳の原則としました。ジョン・スチュアート・ミルは、「功利主義論」において、ベンサムの功利主義を修正し、質的に異なる快楽を区別するなど、より洗練された功利主義を展開しました。
自由主義：ロールズとノージック
20世紀後半には、ジョン・ロールズが「正義論」において、無知のヴェールという思考実験を用いて、自由と平等の両立を目指した正義の二原則を導き出し、現代における自由主義の議論に大きな影響を与えました。また、ロバート・ノージックは、「アナーキー、国家、ユートピア」において、個人の権利を最大限に尊重するリバタリアニズムの立場から、国家の役割を最小限に限定することを主張しました。
共同体主義：サンデル
マイケル・サンデルは、共同体主義の代表的な論者として知られています。共同体主義は、自由主義が前提とする個人主義的な人間観を批判し、個人が共同体や伝統との結びつきの中でアイデンティティを形成し、道徳的な判断を行うと主張します。サンデルは、「リベラリズムと正義の限界」などにおいて、自由主義の限界を指摘し、共同体における共通善の追求を重視する立場を表明しています。
サンデルの「これからの「正義」の話をしよう」における議論
サンデルの「これからの「正義」の話をしよう」は、功利主義、自由主義、共同体主義といった主要な正義論の立場を紹介しながら、現代社会における具体的な道徳的問題について考察を進めています。トロッコ問題、アファーマティブ・アクション、代理母出産、同性婚といった現代的な倫理的問題を取り上げ、読者にそれぞれの立場からどのように考えることができるのかを示唆しています。
現代における正義論の展開
サンデルの著作は、現代における正義論の多様な展開の一端を示しています。近年では、グローバル化や環境問題、人工知能の発展といった新たな課題を前に、正義論の議論はさらに深化し、多様化しています。フェミニズムやマルクス主義、ポストコロニアル理論などの視点も取り入れられ、より複雑で多層的な議論が展開されています。
サンデルの「これからの「正義」の話をしよう」を深く理解するためには、以上のような正義論の歴史的背景や主要な立場についての知識が不可欠です。これらの背景知識を踏まえることで、サンデルが提起する現代社会における道徳的問題をより深く理解し、自分自身の立場を形成する上で役立つと考えられます。
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