サルトルの弁証法的理性批判の構成
序論
『弁証法的理性批判』は、サルトルが晩年に発表した大著であり、彼自身の思想である実存主義とマルクス主義との統合を図るとともに、歴史や社会の総体的な理解を目指した壮大な試みです。本著は、大きく分けて2巻で構成されています。
第1巻:実践的全体性の理論
第1巻では、「実践」を基軸に据え、個人の自由な行為がいかに他者の行為と絡み合い、歴史や社会といった「実践的全体性」を形成していくのかを分析します。
第1巻はさらに以下の3部から構成されます。
– 第1部:物質の彼方
– 第2部:個人の実践
– 第3部:我々
サルトルは、まず伝統的な哲学や科学が前提としてきた「物質」という概念を批判的に検討し、「疎外された実践」としての「物質性」を明らかにします。
次に、人間の具体的な「行為」に焦点を当て、「必要性」と「自由」の弁証法を通じて、個人の行為が他者の行為と相互に規定し合いながら、歴史的な「状況」を形成していく過程を解明します。
そして、「我々」という集合的な主体の概念を導入し、個人の実践が「集団」や「階級」といったより大きな実践的全体性へと統合されていくメカニズムを明らかにします。
第2巻:真理と歴史
第2巻は未完に終わっていますが、第1巻で展開された「実践的全体性」の理論を基盤に、「歴史」という巨大なテーマに取り組む構想でした。
サルトルは、歴史を単なる出来事の羅列としてではなく、「意味」と「方向性」を持った「全体性」として捉えようとしました。
そして、歴史における「主体」と「客観性」、「必然性」と「偶然性」などの問題に取り組み、「弁証法的理性」によって歴史を総体的に理解しようとしたのです。
以上が、『弁証法的理性批判』の2巻構成の概要です。