サルトルの存在と無の思想的背景
現象学
サルトルの思想を理解する上で欠かせないのが、現象学、特に、エトムント・フッサールとマルティン・ハイデガーの現象学の影響です。フッサールは、意識は常に「何かの意識」であるという「志向性」の概念を提唱し、客観的な世界そのものではなく、意識に現れる現象に焦点を当てて哲学を構築しようとしました。サルトルは、このフッサールの現象学的方法を自身の哲学の基礎としています。
実存主義
「実存は本質に先立つ」という有名なテーゼに代表されるように、サルトルの思想は実存主義に分類されます。これは、人間は、あらかじめ決められた本質を持たずに、まず世界の中に「投げ込まれた」存在として存在し、その後自らの選択と行動によって自身の存在を規定していくという考えです。
自由と責任
実存主義の中心概念である自由は、「存在と無」においても重要なテーマとなっています。サルトルは、人間は常に選択の自由を持ち、その選択を通じて自分自身を作り上げていくと考えています。しかし、この自由は同時に責任を伴うものであり、自己を形成する責任から逃れることはできないと主張します。
無と虚無
「無」は、サルトルの哲学において重要な概念です。サルトルは、意識は「無」として世界の中に存在すると考えます。意識は、対象となるものとは異なり、それ自体としては何もない「空虚」として存在することで、対象を認識することができるというのです。