サリンジャーのフラニーとズーイと人間
フラニーの苦悩と信仰
「フラニー」では、裕福な家庭で育った大学生フラニー・グラスが、周囲の人々の偽善や自己中心的さに幻滅し、精神的に不安定な状態に陥っていく様子が描かれています。彼女はボーイフレンドのレーンとデート中に激しい不安発作を起こし、トイレに駆け込みます。そこで彼女は、ある宗教書「巡礼者の身の回りの話」を繰り返し読み始め、心の平安を求めようとします。
フラニーの苦悩は、当時のアメリカ社会における物質主義や競争主義に対する批判として解釈することができます。彼女は周囲の人々の表面的な会話や自己顕示欲に嫌悪感を抱き、より深い精神性を求めているように見えます。
ズーイの洞察と兄妹愛
「ズーイ」では、舞台はグラス家のニューヨークのアパートに移ります。フラニーは精神的にさらに不安定な状態に陥り、部屋に閉じこもっています。そこへ、兄のズーイがやって来て、妹を励まそうとします。
ズーイは俳優として成功しており、一見すると世俗的な人物に見えます。しかし、彼は鋭い洞察力と深い愛情を持つ人物として描かれています。彼はフラニーの苦悩を理解しようと努め、自分自身の経験を交えながら、彼女に助言を与えます。
ズーイは、フラニーが傾倒する宗教書の内容を否定するのではなく、その本質を理解しようとします。彼は、フラニーが求めているのは「偽りのない祈り」であり、それは日常生活の中で実践できるものだと説きます。
グラス家の複雑な家族関係も、物語の重要な要素となっています。フラニーとズーイは、幼い頃にラジオ番組に出演していた天才児であり、他の兄弟たちとは異なる特別な絆で結ばれています。
「フラニーとズーイ」は、信仰、家族、そして自己発見という普遍的なテーマを探求した作品です。サリンジャーは、登場人物たちの内面を繊細な筆致で描き出すことで、読者に深い共感と問い掛けを与えています。