サリンジャーのナイン・ストーリーズの周辺
ナイン・ストーリーズの概要
『ナイン・ストーリーズ』（原題：Nine Stories）は、J・D・サリンジャーが1953年に発表した短編集です。 この作品には、雑誌『ニューヨーカー』などに掲載された9篇の短編小説が収録されています。 サリンジャーは、長編小説『ライ麦畑でつかまえて』で大きな成功を収めた後、世間の注目から距離を置くようになり、短編小説の執筆に専念するようになりました。『ナイン・ストーリーズ』は、そんな彼の作風の転換点となった作品とも言えます。
収録作品
『ナイン・ストーリーズ』に収録されている9つの短編は以下のとおりです。
* 完全な日々のためにバナナ魚に最適な日 (A Perfect Day for Bananafish)
* 伯父さんのウィッグ (Uncle Wiggily in Connecticut)
* 巡礼者のためのスペース Just Before the War with the Eskimos
* 笑い男 (The Laughing Man)
* ダウンでたっぷり (Down at the Dinghy)
* エズメのために-愛と汚辱を込めて- (For Esmé—with Love and Squalor)
* バナナフィッシュのその後 (Teddy)
* 愛想のいい人 (De Daumier-Smith’s Blue Period)
* テディ (Teddy)
テーマ
『ナイン・ストーリーズ』では、それぞれ独立した物語が展開されますが、共通するテーマとして、**疎外感、喪失感、純粋さとその喪失、コミュニケーションの難しさ**などが挙げられます。 登場人物たちは、社会に馴染めなかったり、孤独を抱えていたり、理想と現実のギャップに苦しんだりしています。
文体
サリンジャーの文体は、簡潔で洗練されており、登場人物たちの内面を鋭く描き出しています。 特に、**口語的な表現やスラングを巧みに用いることで、登場人物たちのリアルな心情や人間関係を表現している**点が特徴です。 また、皮肉やユーモアを交えながら、現代社会に対する痛烈な批判を込めている点も注目されます。
影響
『ナイン・ストーリーズ』は、発表当時から高い評価を受け、多くの作家に影響を与えました。 特に、**若者たちの心情を瑞々しく描いた作風は、後のアメリカの青春小説に大きな影響を与えた**と言われています。 また、短編小説という形式の可能性を追求した作品としても評価されており、現代の短編小説にも通じる先駆的な作品と言えるでしょう。