サッカレーの『ヘンリー・エズモンド』とアートとの関係
絵画の力と欺瞞
『ヘンリー・エズモンド』は、絵画が持つ力、特に肖像画が持つ力を繰り返しテーマとしています。登場人物の個性、願望、歴史との関係を捉える能力が、その力の中核にあります。
サッカレーは、登場人物と肖像画の関係を通して、視覚芸術が過去をどのように呼び起こし、物語に影響を与えるかを明らかにします。トーマス・トレヴァン卿の肖像画は、エズモンドの心に深く根付き、若い頃のエズモンドにとって、彼自身の家族の歴史と謎めいたトレヴァン卿の存在を結びつける役割を果たしています。この絵は、登場人物の人生を形作り続ける過去の目に見えるつながりを表しています。それはまた、小説における芸術の欺瞞的な性質を予示するものでもあります。なぜなら、絵画は、後に物語の中で覆されることになる、歴史と登場人物に関する単一の物語を提供するからです。
ベアトリクス自身も熟練した芸術家として描かれ、肖像画を制作し、自分の美貌を武器として巧みに振る舞います。求婚者を引き寄せるための道具として絵画を用いる彼女の能力は、芸術が社会の中で、特に求愛の複雑なゲームにおいて、どのように展開され、操作されるかを示しています。
歴史と記憶の視覚表現
この小説は、歴史小説を自称し、歴史を形成する複雑なタペストリーの中に芸術を織り込んでいます。サッカレーは、人物の表現や歴史的出来事の描写を通して、絵画を記憶と過去の有形なつながりとして使用しています。これらの視覚表現は、読者を物語の世界に引き込み、過ぎ去った時代を垣間見せる役割を果たしています。
さらに、芸術に対するサッカレーのこだわりは、絵画の描写のみにとどまりません。彼の記述的な散文は、鮮やかなイメージと感覚的なディテールを呼び起こす、芸術家の筆のような言葉によって、場面や登場人物を生き生きと描きます。