コンラッドのノストロモの発想
ノストロモ号のデザインと象徴性
：コンラッドはノストロモ号を、物語の中心となる象徴的な存在としてデザインしました。船は、当時の一般的な貨物船をモデルにしており、コンラッド自身の船員としての経験が反映されています。錆や汚れ、老朽化といった描写を通して、ノストロモ号は単なる移動手段ではなく、人間の欲望や絶望、そして抗えない運命を象徴するものとして描かれています。
名前の由来と意味
：ノストロモ号の名前は、イタリア語で「私たちの」を意味する「nostro」と、「～のもの」を意味する「-mo」を組み合わせた造語です。これは、船が乗組員にとって、家であり、生活の場であり、運命共同体であることを暗示しています。しかし、同時に「nostro」には「俺たちだけの」という排他的なニュアンスも含まれており、外部世界に対する乗組員の閉鎖性や、孤立感を強調する効果も持っています。
船内空間と社会の縮図
：ノストロモ号の船内は、当時の社会の縮図として描かれています。船長や航海士といった支配階級から、船員や機関士といった労働者階級まで、様々な階層の人間が狭い船内で生活を共にしています。この閉鎖的な空間は、人間関係の緊張や葛藤、権力闘争などを描き出す舞台として機能しています。
航海の目的と寓意
：ノストロモ号の航海の目的は、銀の輸送です。銀は物質的な富を象徴すると同時に、人間の欲望や貪欲の対象として描かれています。航海の過程で、乗組員たちは銀の誘惑に翻弄され、互いに疑心暗鬼に陥っていきます。このことから、航海は人間の道徳的な堕落や、文明社会における闇を象徴するものとして解釈することができます。