Skip to content Skip to footer

ケルゼンの自然法論と法実証主義の対極

## ケルゼンの自然法論と法実証主義の対極

###

自然法論の系譜における古典:アリストテレス「ニコマコス倫理学」

古代ギリシャの哲学者アリストテレスの「ニコマコス倫理学」は、自然法論の古典として、ケルゼンの法実証主義と対峙する思想的根幹を提示しています。アリストテレスは、人間を含む万物がそれぞれの「本性」に従って存在し、その本性に根ざした目的を達成することで「善」を実現すると考えました。

人間にとっての「善」は、理性に基づいた徳の実践を通して実現されます。アリストテレスは、人間の理性には、経験を通して個別具体的な事柄から普遍的な原理を導き出す「実践理性」が備わっていると論じました。実践理性によって把握される普遍的な原理は、人間の行為を導く規範、すなわち「自然法」として機能します。

アリストテレスの自然法は、特定の社会や時代に限定されない普遍的なものであり、法の制定や適用は、この自然法に合致しているかどうかによって評価されるべきだと考えました。これは、法の妥当性を、それが制定された手続きや社会的な事実から独立した客観的な規範に求めようとする立場であり、ケルゼンの法実証主義とは根本的に異なる点です。

###

トマス・アクィナスによる神学的自然法論:『神学大全』

13世紀の神学者トマス・アクィナスは、アリストテレス哲学をキリスト教神学に取り込み、自然法論を発展させました。彼の主著『神学大全』において、アクィナスは、神を究極的な立法者とみなし、自然法は神の理性に由来すると主張しました。

アクィナスによれば、神は世界を創造した際に、万物がその本性に従って秩序づけられるように「永遠法」を定めました。そして、人間は理性を持つ存在として、この永遠法の一部を「自然法」として認識することができます。自然法の第一の原理は「善を行い、悪を避けること」であり、ここから、人間の理性によって具体的な道徳規範や法的規則が導き出されると考えました。

アクィナスの自然法論は、法の根拠を神の意志に求めつつも、人間の理性による自然法の認識を重視している点において、アリストテレスの自然法論を発展させたものと言えるでしょう。また、アクィナスの自然法論は、中世ヨーロッパにおいて大きな影響力を持つようになり、法の根拠を神に求める神学的自然法論の代表的な理論となりました。

###

近代自然法論の先駆者:グロティウス「戦争と平和の法」

17世紀の法学者グロティウスは、近代自然法論の礎を築いた人物として知られています。彼の主著『戦争と平和の法』は、宗教改革や三十年戦争など、ヨーロッパ社会が大きく変動する中で、国際関係における秩序を確立することを目的として書かれました。

グロティウスは、神の存在を前提としない「理性に基づく自然法」を提唱しました。彼によれば、人間は社会的な本性を持ち、平和な共存を維持するために、一定の規則に従って行動する必要があるという。この規則は、神の意志や啓示からではなく、人間の理性によって認識できる普遍的な原理から導き出されるものであり、これが自然法であるとしました。

グロティウスの自然法論は、宗教的な権威に依拠することなく、人間の理性に基づいて国際法の基礎を築こうとした点で画期的でした。彼の思想は、後のロックやカントなどの近代自然法論者に大きな影響を与え、近代的な国際法秩序の形成に貢献することになります。

Amazonで詳細を見る

Leave a comment

0.0/5