ケルゼンの自然法論と法実証主義に影響を与えた本
イマヌエル・カント著「純粋理性批判」
ハンス・ケルゼンは20世紀の最も影響力のある法学者の一人であり、その法実証主義理論、特に「Grundnorm」(基本規範)の概念で知られています。彼の思想は、法哲学、特に自然法と法実証主義の区別をめぐる継続的な議論を形作ってきました。ケルゼン自身は断固たる法実証主義者であり、法律と道徳を明確に分離し、法的妥当性をいかなる道徳的または自然な価値基準にも依存しないものと見なしていました。しかし、彼の法実証主義への道は、自然法の概念、特にイマヌエル・カントの著作におけるその表現との複雑な関わりによって形作られました。
ケルゼンへの最も重要な影響の一つとして挙げられるのは、カントの傑作「純粋理性批判」であり、この本は認識論の限界と人間の理性の本質を探求しています。ケルゼンはこの作品に直接言及していませんが、カントの思想、特に超越的観念主義と道徳的自律性の概念は、ケルゼンの法哲学に大きな影響を与えました。
カントの超越的観念主義は、現実が本質的に人間の心の構成要素であると主張しています。我々は世界をそのままでは認識することができず、むしろ感覚やカテゴリーを通してフィルターされたものとして認識します。この概念は、ケルゼンが法と道徳を区別する方法に深く影響を与えました。カントのように、ケルゼンは客観的な道徳秩序、つまり自然法の存在を認識することを拒否しました。彼にとって、道徳的価値観は本質的に主観的であり、普遍的かつ拘束力のある法的秩序の基礎として機能することはできません。
カントの道徳哲学、特に定言命法の概念も、ケルゼンの思想を形作りました。カントにとって、道徳的行動は、個人の主観的欲求や傾向ではなく、普遍的な理性の法則に基づく必要があります。この道徳的自律性の強調、つまり自分自身に法則を与える能力は、ケルゼンの法実証主義において共鳴しました。ケルゼンは、法的秩序は恣意的または主観的な道徳的原則ではなく、人間の意志の産物である基本規範にその究極的な妥当性を負っていると主張しました。
しかし、ケルゼンはカントの道徳哲学の特定の側面を拒否したことも重要です。特に、彼はカントの自然権の概念、つまり人間の理性に固有であり、いかなる法的秩序からも独立していると主張される権利を批判しました。ケルゼンにとって、権利は本質的に法的であり、特定の法的秩序によってのみ創出され、保証されます。
結論として、イマヌエル・カントの「純粋理性批判」は、それが自然法を拒絶し、法的妥当性と道徳的価値観の間の明確な区別を強調するという点で、ケルゼンの法哲学、特に彼の法実証主義のバージョンを形作ったと言えます。カントの超越的観念主義と道徳的自律性の概念は、ケルゼンの法律と道徳の区別、基本規範の概念、そして人間の意志の産物としての法的秩序の彼の見解に影響を与えました。しかし、ケルゼンはまた、カントの哲学の特定の側面、特に自然権の概念を批判し、法実証主義の独自の形を発展させ、それは20世紀の法思想に永続的な影響を与えました。