## ケルゼンの純粋法学の価値
###
法学的思考の厳密化
ケルゼンは、法学を他の学問分野、特に社会学や倫理学から明確に区別することを目指しました。彼の「純粋法学」は、法を「規範」の体系として捉え、その妥当性を「事実」や「道徳」ではなく、上位の規範との関係においてのみ論じることを主張しました。これは、法学が政治的なイデオロギーや主観的な価値判断に左右されることなく、客観的で科学的な学問となることを目指したものでした。
###
法の階層性の明確化
ケルゼンは、法体系をピラミッド型の階層構造として捉え、それぞれの法規範が上位の規範からその妥当性を導き出すと説明しました。この「 Stufenbau 」と呼ばれる考え方は、法体系の秩序と一貫性を理解する上で重要な視点を提供しました。彼は、このピラミッドの頂点に「Grundnorm(基本規範)」という仮説的な規範を置き、これが全ての法規範の最終的な妥当性の根拠となるとしました。
###
法実証主義への貢献
ケルゼンの純粋法学は、法実証主義の代表的な理論の一つとして位置づけられています。法実証主義は、法の妥当性をその内容の正義や道徳性ではなく、制定手続きや効力といった事実的根拠に基づいて判断する立場です。ケルゼンの理論は、法実証主義の論理的な厳密さを高め、その体系化に大きく貢献しました。
###
法解釈論への影響
ケルゼンは、法解釈においても客観性を重視し、裁判官の自由裁量を最小限に抑えるべきだと主張しました。彼は、法規範の意味は明確に定められており、裁判官はそれを忠実に適用するべきだと考えました。この考え方は、法の予測可能性と安定性を高めるためには重要ですが、同時に、法の硬直化や現実との乖離を招く可能性も孕んでいます。