ケルゼンの純粋法学に匹敵する本
H.L.A.ハート「法の概念」
「法の概念」は、イギリスの法哲学者H.L.A.ハートが1961年に発表した著書であり、20世紀の法哲学、政治哲学に多大な影響を与えた名著です。本書で展開された法実証主義の理論は、現代法哲学における重要な学説の一つとして、現在も世界中で議論の的となっています。
ハートは、従来の法実証主義、特にジョン・オースティンの「命令説」の問題点を指摘し、新たな法理論を構築しました。彼は、法を「一次規則」と「二次規則」から成る体系として捉えます。一次規則は、個人の行動を直接的に規制する規則であり、二次規則は、一次規則を制定、変更、適用、解釈する権限を与える規則です。
特に重要なのが、「承認の規則」と呼ばれる二次規則です。これは、ある社会において、何が法として有効であるかを最終的に決定する規則です。ハートは、この承認の規則の存在によって、法体系が「社会的事実」に基づいて成立することを示しました。
「法の概念」は、法の定義、法と道徳の関係、法解釈など、法哲学の根本的な問題を扱っており、法学研究者のみならず、政治学、社会学など、幅広い分野の研究者に読まれています。
ロン・フラー「法律と道徳性」
「法律と道徳性」は、アメリカの法哲学者ロン・フラーが1964年に発表した著書です。本書は、法と道徳の関係について、自然法論の立場から考察したものであり、法実証主義に対する批判として、大きな影響を与えました。
フラーは、有名な「レックス王の寓話」を通じて、法が道徳的に妥当であるためには、一定の手続き的要件を満たしている必要があることを主張しました。彼が「法の内面的道徳」と呼ぶこの要件には、一般性、公表性、遡及禁止、明確性、矛盾の排除、実行可能性、恒常性、法の適用と制定の一致が含まれます。
フラーによれば、これらの要件は、法が人間の行為を導くためのシステムとして機能するために不可欠なものであり、これらの要件を満たさない法は、真の意味で「法」と呼ぶことはできないとされます。
「法律と道徳性」は、法の道徳的側面を重視する点で、ケルゼンの純粋法学とは対照的な立場を示しています。しかし、法の概念を深く掘り下げ、その本質に迫るという点で、両者は法哲学における金字塔として、今なお読み継がれています。