## ケインズの『雇用・利子・貨幣の一般理論』の対極
###
古典派経済学と新古典派経済学
ケインズの『雇用・利子・貨幣の一般理論』は、1930年代の世界恐慌時の長期不況を背景に、当時の経済学の主流であった古典派経済学に挑戦する形で発表されました。古典派経済学は、市場メカニズムの有効性と、価格調整による完全雇用均衡の達成を前提としていました。
一方、ケインズは、有効需要の不足が不況の原因であると主張し、政府による積極的な財政・金融政策の必要性を説きました。これは、市場メカニズムへの介入を否定する古典派経済学とは大きく異なる点です。
その後、1970年代に入ると、ケインズ経済学は、スタグフレーション(不況下のインフレーション)への対応に苦慮し、その影響力は低下していきます。
###
フリードリヒ・ハイエクと『Prices and Production』
ケインズ経済学に対抗する形で台頭してきたのが、新古典派経済学です。その代表的な論者の一人が、フリードリヒ・ハイエクです。
ハイエクは、1931年に出版した『Prices and Production』の中で、景気循環の原因は、中央銀行による人為的な低金利政策にあると主張しました。
ハイエクによれば、低金利政策は、消費者の時間選好を歪め、本来投資されるべきでない非効率な投資を誘発します。そして、この不均衡な投資が、後の景気後退を引き起こすとしました。
###
ミルトン・フリードマンと『資本主義と自由』
もう一人の代表的な新古典派経済学者が、ミルトン・フリードマンです。彼は、1962年に出版した『資本主義と自由』の中で、政府による市場介入の弊害を批判し、自由市場主義の優位性を主張しました。
フリードマンは、貨幣供給量の増加がインフレーションの唯一の原因であるとする「貨幣数量説」を主張し、中央銀行による裁量的な金融政策を批判しました。
###
ロバート・ルーカスと合理的期待形成学派
1970年代に入ると、合理的期待形成学派と呼ばれる経済学者が台頭しました。その代表格であるロバート・ルーカスは、経済主体は過去の経験に基づいて将来の経済状況を合理的かつ効率的に予測すると主張しました。
合理的期待形成学派は、政府による経済政策は、人々の予測を変化させるため、その効果は限定的であると主張しました。
これらの新古典派経済学の主張は、ケインズ経済学とは対照的なものであり、『雇用・利子・貨幣の一般理論』の対極に位置するものと言えるでしょう。