グロチウスの戦争と平和の法に影響を与えた本
スペイン人とインディアンの戦争の法について
グロチウスの「戦争と平和の法」に影響を与えた本として、フランシスコ・デ・ビトリアの「スペイン人とインディアンの戦争の法について」(De Indis et de jure belli relectiones)が挙げられます。ビトリアは16世紀スペインのサラマンカ大学の教授であり、スコラ哲学の伝統に立脚し、当時スペイン人によるアメリカ大陸征服に伴う道徳的・法的問題に鋭く切り込んだ思想家として知られています。
ビトリアは「スペイン人とインディアンの戦争の法について」の中で、インディアンも自然法上の権利を有しており、スペイン人はこれを侵害することは許されないと主張しました。彼は、アリストテレスの自然法思想に基づき、人間は理性と社会性を持つ存在であるため、生まれながらにして一定の権利を有すると論じます。そして、この権利は特定の宗教や文化に属しているか否かに関わらず、全ての人に等しく認められるべきものであるとしました。
具体的には、ビトリアはインディアンが所有する土地や財産の権利、自衛権、そして自由な交易を行う権利などを認めました。彼は、スペイン人が一方的にインディアンの土地を奪ったり、強制的にキリスト教に改宗させたりすることは正当化できないと批判しました。 また、ビトリアは戦争の開始についても厳しい条件を課しました。彼は、正当な理由なくして武力を行使することは許されず、戦争はあくまでも最終手段としてのみ正当化されるとしました。
ビトリアの思想は、当時のヨーロッパ社会に大きな衝撃を与えました。なぜなら、それはスペインによる植民地支配の正当性を根底から揺るがすものであったからです。彼の主張は、後の国際法の発展に大きな影響を与え、グロチウスの「戦争と平和の法」にも受け継がれました。
グロチウスはビトリアの思想を継承し、自然法を基礎とした普遍的な法秩序の構築を目指しました。彼は「戦争と平和の法」の中で、戦争は一定のルールに従って行われるべきであり、無制限な暴力は決して許されるべきではないと主張しました。
グロチウスは、ビトリアと同様に、戦争開始の正当性について厳格な基準を設けました。彼は、自衛や条約違反に対する報復など、正当な理由なくして戦争を開始することは許されないと考えました。また、戦争においても、無差別な殺戮や略奪は禁止されるべきであり、捕虜や負傷者に対しては人道的に待遇すべきであると主張しました。
このように、ビトリアの「スペイン人とインディアンの戦争の法について」は、グロチウスの「戦争と平和の法」に大きな影響を与えました。ビトリアの思想は、グロチウスを通じて近代国際法の基礎となり、現代社会においても重要な意義を持ち続けています。