クラウゼヴィッツの戦争論に影響を与えた本
カール・フォン・クラウゼヴィッツの戦争論に影響を与えた本：アントワーヌ＝アンリ・ジョミニの戦争の概論
カール・フォン・クラウゼヴィッツの傑作『戦争論』は、戦争と戦略に関する不朽の考察であり、その影響は軍事理論の領域を超えて、政治学、ビジネス、その他の分野にまで及んでいます。この重要な著作の形成に影響を与えた要因は数多くありますが、アントワーヌ＝アンリ・ジョミニの『戦争の概論』ほど重要な著作はありません。ジョミニの影響は、クラウゼヴィッツ自身の著作においても明らかであり、クラウゼヴィッツはジョミニの考え方に異議を唱えながらも、それをたたき台として自身の理論を構築しています。
スイス生まれのフランス軍人であったジョミニは、戦争を分析し、その背後にある原理原則を蒸留することを目的とした体系的なアプローチで知られていました。1806 年に出版された彼の代表作『戦争の概論』は、決定的な戦闘に勝利をもたらす普遍的な原則を探求しており、この点において、ジョミニの著作は当時のナポレオン戦争の経験と、フレデリック大王やハンニバルなどの軍事指導者たちの研究に大きく影響を受けていました。
ジョミニは、戦争を支配する普遍的かつ不変の原則が存在すると信じていました。彼は、戦争は科学的な正確さで研究し、理解することができると主張しました。ジョミニの中心的な考え方は、決定的な戦闘で敵軍の「決定的地点」を攻撃することに焦点を当てたものでした。決定的地点とは、敵軍の戦力の中心であり、その指揮統制の中枢、兵站の中心、または戦闘力の集中している場所などを指します。この地点への集中攻撃と兵力の優勢を達成することで、ジョミニは、熟練した指揮官が戦闘の流れを変え、勝利を確実にすることができると考えていました。
クラウゼヴィッツはジョミニの作品を高く評価していましたが、ジョミニのアプローチの限界を認識しており、しばしばそれを還元的すぎると批判しました。ジョミニは明確な規則と原則に焦点を当てていましたが、クラウゼヴィッツは戦争は複雑で動的であり、厳密な公式化に逆らうものだと認識していました。彼は、戦争の「霧」――つまり、不完全な情報、不確実性、偶然性が戦闘の経過を形作るという概念――が、常に変化する状況に適応することを必要とするため、厳密なルールを適用することを困難にする、と主張しました。
ジョミニの体系的なアプローチと対照的に、クラウゼヴィッツは、戦争の政治的性質とその軍事作戦への影響を強調しました。彼は、戦争は本質的に政治的な行為であり、その過程は常に政治的な目的と制約によって形作られると主張しました。クラウゼヴィッツは、有名な「戦争は政治の他の手段による継続である」という言葉で、戦争を政治的プロセスと密接に結びつけ、政治指導者と軍事指導者の間の複雑な相互作用を浮き彫りにしました。
さらにクラウゼヴィッツは、戦争の「摩擦」という概念、つまり、戦争を紙の上で行う単純な行為から逸脱させる無数の予測不可能な要素を導入しました。地形、天候、士気、兵站などの要因はすべて、軍事作戦に影響を与え、最も綿密に練られた計画でさえも失敗に終わらせる可能性がありました。クラウゼヴィッツは、軍事指導者に対して、戦争の予測不可能性を受け入れ、常に変化する状況に適応することを強調しました。
クラウゼヴィッツがジョミニの考え方を批判していたにもかかわらず、ジョミニの著作は、クラウゼヴィッツ自身の思考にとって重要な出発点を提供していました。ジョミニの著作に対抗することによって、クラウゼヴィッツは自身のより複雑な戦争の概念を発展させ、その概念は、摩擦、不確実性、政治と軍事領域の間の複雑な相互作用を認識していました。ジョミニの影響は、クラウゼヴィッツの著作全体の構成、彼の議論、そして彼が分析した具体的な軍事概念に見ることができます。
結論として、アントワーヌ＝アンリ・ジョミニの『戦争の概論』は、クラウゼヴィッツの『戦争論』に大きな影響を与え、ジョミニの体系的な戦争へのアプローチとその不変の原則への信念は、クラウゼヴィッツ自身のより複雑な戦争の理解のための対照点を提供しました。クラウゼヴィッツは、ジョミニの著作に異議を唱え、それを批判しながらも、ジョミニの考え方をたたき台として使用し、戦争に関する独自の独創的な理論を構築しました。ジョミニの著作とクラウゼヴィッツの著作の間の相互作用は、以前の思想家が後の思想家にどのように影響を与え、形作り、彼らに挑戦し、最終的には人類の思考の進歩に貢献するかを如実に示しています。