# ギボンのローマ帝国衰亡史を深く理解するための背景知識
エドワード・ギボンとその時代
エドワード・ギボン(1737~1794)は、イギリスの啓蒙主義時代の歴史家であり、その代表作『ローマ帝国衰亡史』(全6巻、1776~1788)で広く知られています。ギボンは裕福な家庭に生まれ、オックスフォード大学で学びましたが、カトリックへの改宗騒動により退学し、スイスのローザンヌでカルヴァン主義の教育を受けました。その後、イギリスに戻り、民兵隊の勤務などを経て、歴史研究に専念するようになりました。
ギボンが『ローマ帝国衰亡史』を執筆した18世紀後半は、ヨーロッパにおいて啓蒙主義が全盛期を迎えていました。啓蒙主義は、理性と経験に基づいて社会や政治を改革しようとする思想運動であり、歴史研究においても、従来の神学的解釈に代わって、合理的かつ経験的な分析が重視されるようになりました。ギボンもまた、啓蒙主義の影響を受け、ローマ帝国の衰亡を、宗教的要因だけでなく、政治、経済、軍事、社会など、様々な側面から分析しようとしました。
ローマ帝国衰亡史の内容と特徴
『ローマ帝国衰亡史』は、五賢帝時代末期の180年から東ローマ帝国滅亡の1453年までの約1300年間のローマ帝国の歴史を扱っています。ギボンは、この長大な期間におけるローマ帝国の衰亡の過程を、詳細な史料に基づいて記述し、その原因を多角的に分析しています。
ギボンの歴史観の特徴としては、まず、ローマ帝国の衰亡を不可避な過程として捉えている点が挙げられます。彼は、ローマ帝国が繁栄を極めた後、徐々に衰退していくのは歴史の必然であり、避けられない運命であると考えていました。
また、ギボンは、キリスト教の隆盛がローマ帝国の衰亡の一因になったと主張しています。彼は、キリスト教がローマ帝国の伝統的な価値観や社会秩序を破壊し、軍隊の士気を低下させたと批判しました。このキリスト教批判は、当時のキリスト教社会において大きな反響を呼び、多くの論争を引き起こしました。
さらに、ギボンは、ローマ帝国の衰亡を、政治腐敗、軍事力の低下、蛮族の侵入など、様々な要因から説明しています。彼は、これらの要因が複雑に絡み合い、ローマ帝国を衰亡へと導いたと分析しています。
ローマ帝国衰亡史の史料と方法
ギボンは、『ローマ帝国衰亡史』の執筆にあたり、膨大な量の史料を収集し、分析しました。彼は、古代ローマの歴史家タキトゥスやスエトニウスなどの著作をはじめ、碑文、貨幣、遺跡など、様々な史料を駆使して、ローマ帝国の歴史を再構成しようとしました。
また、ギボンは、史料批判の手法を導入し、史料の信頼性を吟味することを重視しました。彼は、史料の内容が矛盾する場合には、複数の史料を比較検討し、より信頼性の高い史料を採用するよう努めました。
さらに、ギボンは、比較史学の手法を用いて、ローマ帝国の歴史を他の文明の歴史と比較検討しました。彼は、ローマ帝国の衰亡の過程を、他の文明の興亡と比較することで、ローマ帝国衰亡の特異性と普遍性を明らかにしようとしました。
ローマ帝国衰亡史の影響と評価
『ローマ帝国衰亡史』は、出版当時から大きな反響を呼び、ヨーロッパの知識人に広く読まれました。ギボンの博識と雄弁な文体は高く評価され、歴史書の古典として位置づけられました。
また、『ローマ帝国衰亡史』は、その後の歴史研究に大きな影響を与えました。ギボンの歴史観や史料批判の手法は、多くの歴史家に受け継がれ、発展させられました。
しかし、『ローマ帝国衰亡史』は、キリスト教批判やローマ帝国衰亡の原因に関する解釈など、批判を受ける点も少なくありません。特に、キリスト教の影響を過大評価しているという批判は、現在でも根強く残っています。
ローマ帝国衰亡史を理解する上で重要な歴史的背景
『ローマ帝国衰亡史』を深く理解するためには、ローマ帝国の歴史はもちろんのこと、ギボンが生きていた18世紀ヨーロッパの社会や思想についても理解する必要があります。
例えば、ギボンがキリスト教を批判した背景には、啓蒙主義の影響だけでなく、彼が幼少期に経験したカトリックへの改宗騒動が影響していると考えられています。
また、ギボンがローマ帝国の衰亡を不可避な過程として捉えていたのは、彼が古代ギリシャ・ローマの歴史を循環論的に捉えていたことと関係しています。循環論とは、歴史は盛衰を繰り返すという考え方であり、古代ギリシャ・ローマの歴史観においては一般的な考え方でした。
さらに、ギボンがローマ帝国の衰亡の原因を多角的に分析した背景には、18世紀ヨーロッパにおいて、歴史研究が神学的解釈から脱却し、合理的かつ経験的な分析へと移行しつつあったことが挙げられます。
このように、『ローマ帝国衰亡史』を深く理解するためには、ローマ帝国の歴史だけでなく、ギボン自身の生きた時代や思想的背景についても理解することが重要です。
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