## キルケゴールの死にいたる病の思想的背景
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ヘーゲル哲学への批判
キルケゴールは、当時のヨーロッパ思想界を席巻していたヘーゲル哲学に真っ向から対峙しました。「死にいたる病」も、ヘーゲル哲学の体系的・客観主義的な思想への批判として読むことができます。ヘーゲルは、歴史や精神の進歩を弁証法的に捉え、最終的に絶対知へと至るとしました。
しかし、キルケゴールは、このような壮大な歴史観や体系的な思想は、人間存在の具体的で個人的な側面を軽視していると批判します。「死にいたる病」で描かれる絶望は、まさにそうした抽象的な体系に回収できない、個人の内面における苦悩として現れています。
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実存主義の萌芽
キルケゴールは、「死にいたる病」において、人間存在の不安や絶望といった実存的な問題を真正面から取り上げています。これは、後にサルトルやカミュなどによって展開される実存主義の思想の先駆的なものと見なされています。
キルケゴールは、「死にいたる病」で、人間が自己の有限性や自由と向き合ったときに感じる根源的な不安を描き出しています。そして、そうした不安や絶望を克服するためには、信仰による自己超越が必要であると説きます。
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キリスト教信仰の再解釈
キルケゴールは敬虔なクリスチャンであり、「死にいたる病」もキリスト教思想を背景に書かれています。しかし、キルケゴールは、当時の教会制度や形式化された信仰に批判的でした。「死にいたる病」で描かれる絶望は、既存のキリスト教が提供する安易な慰めを超えた、より根源的な信仰の必要性を示唆しています。
キルケゴールは、「死にいたる病」において、信仰を抽象的な教義の受容ではなく、自己の全てを賭けた、実存的な決断として捉え直そうとしました。それは、既存のキリスト教の枠組みを超えた、より個人的で情熱的な信仰の形を求めるものでした。