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キルケゴールの死にいたる病の価値

## キルケゴールの死にいたる病の価値

1.「死に至る病」とは何か

セーレン・キェルケゴールの著作『死に至る病』は、1849年にアンティ・クリマクスという偽名で出版されました。 この作品でキェルケゴールが分析の対象としたのは、「絶望」という人間の根源的な状態です。 ただし、彼が「絶望」と呼ぶものは、一般的な意味での悲観や失望とは異なります。 キェルケゴールにとって絶望とは、自己と自己の可能性に対する根本的な矛盾、言い換えれば「自己でありたくないという願いと、自己であり続けなければならないという事実との間の絶望的な対決」を意味します。

2.絶望の形態とその分析

キェルケゴールは、「絶望」を、自己に対する意識の有無と、神との関係の有無によって、大きく四つの形態に分類します。

* **無意識の絶望(自己を意識しない絶望)**

* **無意識の絶望(神を意識しない絶望):** これは、自分が有限な存在であること、そして永遠なるものとの関係において自己を理解することの必要性を、全く意識していない状態です。多くの人々は、日々の生活に埋没し、この無意識の絶望の中に生きています。
* **無意識の絶望(神を意識する絶望):** これは、神の存在を意識する一方で、自己の存在の意味や永遠性との関係を深く考えようとしない状態です。神への信仰を形式的に捉え、自己と真剣に向き合っていない状態とも言えます。

* **意識的な絶望(自己を意識する絶望)**

* **意識的な絶望(神を意識しない絶望):** これは、自分が有限な存在であることを自覚し、永遠の視点から見て自己の存在に意味を見出せないことに絶望する状態です。ニヒリズムや虚無主義はこの形態に該当します。
* **意識的な絶望(神を意識する絶望):** これは、神の存在を意識しつつも、自己の罪深さや不完全さ故に、神との関係を持つことに絶望する状態です。しかし、キェルケゴールはこの絶望こそが、真の信仰、つまり神との真の関係に至るための必要条件だと考えました。

キェルケゴールは、これらの絶望の形態を、具体的な例や寓話などを交えながら詳細に分析し、人間の心の奥底に潜む複雑な心理状態を浮き彫りにします。

3.信仰への道

キェルケゴールは、絶望からの唯一の出口は、神への「信仰の飛躍」であると主張します。 彼は、理性や論理によって神の存在を証明することは不可能だと考えました。 信仰とは、不確実性と矛盾に満ちた状況下において、自らの有限性を認め、神の前に無条件に自己を委ねることです。 そして、この信仰の飛躍によってのみ、人間は絶望を克服し、真の自己、永遠の自己を獲得することができるとされます。

4.現代社会における意義

『死に至る病』で描かれた人間の存在の不安、自己と向き合うことの難しさ、そして信仰の持つ意味は、現代社会においても色褪せることはありません。物質的な豊かさが増す一方で、精神的な空虚感や不安を抱える現代人にとって、自己の存在と向き合い、真の生き方を問うキェルケゴールの思想は、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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