## キッシンジャーの国際秩序を深く理解するための背景知識
冷戦と米ソ二極体制
ヘンリー・キッシンジャーが米国政治の表舞台に登場したのは、冷戦と呼ばれる米ソ対立の時代でした。第二次世界大戦後、世界は資本主義陣営を率いるアメリカ合衆国と共産主義陣営を率いるソビエト連邦という二つの超大国を中心とした二極体制へと突入しました。この両陣営はイデオロギーや政治体制、経済システムにおいて根本的に対立し、軍拡競争や代理戦争を通じて世界各地で覇権を争いました。キューバ危機やベトナム戦争など、世界を核戦争の危機に陥れるような出来事も発生しました。
リアリズムと国際政治
キッシンジャーの外交思想は、リアリズムと呼ばれる国際政治理論に根ざしています。リアリズムは、国際社会は無政府状態であり、国家は自国の安全保障と国益を最大化することを最優先に行動するという考えに基づいています。道徳やイデオロギーよりも、パワーと国益を重視するのがリアリズムの特徴です。キッシンジャーは、冷戦下の厳しい国際環境において、アメリカの国益を守るためには、イデオロギーにとらわれず、現実的な外交政策を展開する必要があると考えました。
ニクソン政権とデタント
キッシンジャーは、リチャード・ニクソン大統領のもとで国家安全保障問題担当大統領補佐官、そして国務長官を務めました。ニクソン政権は、冷戦の緊張緩和を目指し、ソ連や中国との関係改善を図るデタント(緊張緩和)政策を推進しました。キッシンジャーは、ニクソン大統領の信任を得て、このデタント政策の中心的な役割を果たしました。彼は、中国との国交正常化やソ連との戦略兵器制限交渉など、歴史的な外交成果を挙げました。
バランス・オブ・パワー
キッシンジャーの外交政策の根幹をなす概念の一つが、バランス・オブ・パワー(勢力均衡)です。これは、特定の国家が過度に強大化することを防ぎ、国際的な勢力の均衡を保つことで、平和と安定を実現するという考え方です。冷戦期においては、アメリカとソ連という二つの超大国の均衡が、世界の安定を維持する上で重要であると考えられました。キッシンジャーは、中国との関係改善を進めたのも、ソ連に対抗する勢力として中国を活用し、バランス・オブ・パワーを維持するためでした。
秘密外交と介入主義
キッシンジャーは、目的達成のためには秘密外交や武力介入も辞さないという現実主義的な手法をとりました。ベトナム戦争の和平交渉や中国との国交正常化交渉など、多くの重要な外交交渉を秘密裏に進めました。また、チリのアジェンデ政権打倒など、アメリカの国益を守るためには他国の内政に介入することも厭いませんでした。このような手法は、国内外から批判を浴びることもありましたが、キッシンジャーは、冷戦という厳しい国際環境においては、必要悪であったと主張しました。
多極化と新たな国際秩序
冷戦終結後、世界はアメリカ一強時代を経て、中国やロシアなどの新興国の台頭により、多極化へと向かっています。キッシンジャーは、この多極化する世界においても、バランス・オブ・パワーの概念が重要であると主張しています。彼は、アメリカは、中国やロシアなどの新興国との協調と競争を通じて、新たな国際秩序を構築していく必要があると考えています。
キッシンジャーの功績と批判
キッシンジャーは、冷戦期のデタント政策や中国との国交正常化など、歴史的な外交成果を挙げ、ノーベル平和賞も受賞しました。しかし、その現実主義的な外交手法は、秘密外交や武力介入など、倫理的な問題点を孕んでいるとして批判されることも少なくありません。ベトナム戦争への関与やチリへの介入などは、現在でも議論の的となっています。
キッシンジャーの国際秩序理解
キッシンジャーの国際秩序に対する考え方は、リアリズム、バランス・オブ・パワー、そしてアメリカの国益重視という点に集約されます。彼の外交政策は、冷戦という特殊な歴史的文脈の中で形成されたものであり、その功罪については様々な評価が存在します。しかし、彼の思想や行動は、冷戦後の国際秩序を理解する上でも重要な視点を提供してくれます。現代の国際社会においても、彼の提唱するバランス・オブ・パワーや多極化への対応といった概念は、依然として重要な意味を持ち続けていると言えるでしょう。
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