## キケロの老年についての思想的背景
### 1.
古代ローマにおける老年の位置づけ
古代ローマ社会では、年齢を重ねることは知恵と経験の蓄積を意味し、老人は一般的に尊敬を集めていました。彼らは家父長として家族を統率し、元老院議員として政治にも影響力を持っていました。ローマの伝統的な価値観である「モース・マヨールム」(先祖の道徳)においても、老人は模範となる存在として尊重されていました。
### 2.
ストア哲学の影響
「老年について」には、ストア哲学の影響が色濃く見られます。ストア派は、理性に従って生きること、運命を受け入れること、外的要因に左右されない心の平安(アパテイア)を重視していました。キケロ自身はストア派の信奉者ではありませんでしたが、その思想に共感する部分が多く、特に「老年について」では、老いにおける苦痛や死に対するストア的な視点を提示しています。例えば、老いは自然な流れであり、理性に従って受け入れるべきものとして描かれています。
### 3.
キケロの個人的背景
「老年について」は、キケロ自身が晩年に達し、政治的な活動の場から遠ざかっていた時期に執筆されました。彼は自身の経験を踏まえながら、老いにおける喜びや可能性を語りかけています。また、当時のローマ社会が抱えていた政治的な混乱や道徳の衰退に対する憂いも、作品全体を通して読み取ることができます。キケロは、老人が持つ知恵や経験を生かして、社会に貢献することの重要性を訴えかけていました。